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中国美味紀行その34(上海編5)「素材を無駄にすることなく、すべてを使い尽くす──塩水鴨と老鴨粉絲湯」

 前回、上海から“比較的近く”にある南京の食べ物である湯包を取り上げたが、引き続き今回も、南京の名物料理をご紹介する。鴨肉という、日本ではあまり馴染みのない素材の料理だが、なかなか味わい深いものがある。

鴨肉の濃い味わいが楽しめる

 鴨肉というと、日本ではあまり馴染みがなく、筆者などがまず思い浮かぶのはフランス料理の「鴨のロースト、オレンジソースがけ」だろうか。たしかグルメ漫画『美味しんぼ』の初期の頃に鴨のローストが取り上げられていて、それで記憶に残っているのかもしれない。日本料理だと、一般的なものでは、せいぜい鴨南蛮に使われる鴨肉や合鴨肉くらいではないだろうか。少なくとも自宅で「今晩の夕食は鴨肉よ〜」なんていう言葉を聞いた記憶はない。

 で、まず紹介する南京名物の鴨料理がこちら。

「塩水鴨」22元(335円)。南京に本店がある南京料理レストランの上海支店にて 中国で鴨肉は一般的な食材だが、南京では特に好まれているようで、さまざまな料理があるらしい。そのなかでも代表的なのが、この塩水鴨のようだ。

 内蔵を取った丸ごとの鴨肉に塩をすり込んだり、漬け汁に漬け込んだりした後に茹で、冷やしてから食べる。作り方は複雑ではないが、時間がかかり面倒なので、南京人も家で作るより、専門の店で作ったものを買うことのほうが多いようだ。

 スライスされた肉片を食べてみると……ちょっとしょっぱい。まあ塩水鴨というくらいだから当たり前だが、一皿を一人で食べ尽くしたら、血圧が10くらい上がりそうな気がする。とはいえ、塩味というシンプルな味付けだけに、鴨肉の味をストレートに味わうことができ、鶏肉とは違った、濃い目の肉の味を楽しむことができる。

夜食にぴったりの麺料理

 そしてお次は、上の塩水鴨よりさらに庶民的な料理のこちら。

「老鴨粉絲湯」12元(180円)。南京では「鴨血粉絲湯」と呼ばれており、ネットの写真を見る限り、モツなどがたくさん入っている。おそらく南京人は、上海の老鴨粉絲湯などマガイ物だと思っていることだろう 春雨のような乳白色の細い麺に、同じく白濁したスープ。具には油揚げのようなものと、鴨のモツのスライス、鴨の血を固めたもの、それに香菜(パクチー)がパラパラと入っている。スープはあっさりとした味わいで、麺もツルツルシコシコしていてなかなか良し。

 実はこの老鴨粉絲湯、上の写真の上側に写っているものをご覧になると分かるように、前回ご紹介した「湯包」と同じ店のもの。同じ南京名物ということで、老鴨粉絲湯のある店に湯包ありなのである(その逆は必ずしもいえない)。たいてい湯包はオーダーするとすぐ出てくるので、それをハフハフと食べながら、老鴨粉絲湯が出てくるのを待つというわけだ。どちらもあっさり目の味わいなので、夜食にもぴったりだ。

 ところで、南京では鴨肉が好まれていると書いたが、塩水鴨などを作る際に取り除いたモツの部分は、老鴨粉絲湯の具として使われているわけである。また、鴨の血を固めたものも具として入れられているし、鴨の頭や首、足の部分も、それぞれの部位の特色を活かした別の料理として生まれ変わっている。つまり、鴨の肉を余すところなく使い尽くしているわけである。

 日本も魚の食べ方については世界的に一番といってもいいが、肉の食べ方については肉食文化の歴史がまだ浅いだけに、欧米やアジアの大陸部に較べると遅れている。この鴨肉のような食べ方も、これから学んでいく必要があるだろう。
オマケカット。上海市東部の浦東新区にある張江ハイテクパークを走る路面電車。2009年開通で、乗車料金は2元(30円)

オマケカットその2。3両編成で、まだ新しいので中はきれい

オマケカットその3。軌道は1本。線路を走るのではなく、タイヤ走行で軌道をなぞって走っていく

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。