SecurityInsight | セキュリティインサイト

中国美味紀行その60(深圳編14)「マカオ遠征1 イギリス人が作ったポルトガル風タルトがマカオの名物に──エッグタルト」

 たった2回で終わった香港編に続き、今回から2回にわたり、同じく深圳からすぐ近くにあるマカオの食べ物についてご紹介していく。マカオは1999年に中国に返還されるまで、122年間にわたりポルトガル領だったということで、本場のポルトガル料理、またはマカオ風ポルトガル料理を味わうことができる。

 だが、現地で何度か食べたことがあるにもかかわらず、なぜか料理の写真をまったく撮っていない。というわけで、なぜかちゃんと写真を撮っていた、マカオを代表するスイーツ2つを取り上げる。今回はそのうちの一つ、タルトについて。

マカオに2つあるエッグタルトの有名店

 マカオは深圳から近いとはいえ、陸続きになっている香港とは異なり、深圳から行くには海を渡るフェリーに乗っていかなければならない(下の地図参照)。深圳の南西にあるフェリーターミナルから、だいたい1時間くらいでマカオに着く。

左下の囲まれたところがマカオ。そこに続く赤い線が深圳からのフェリーの航路(グーグルマップより作成)

 深圳からマカオへ行くには、香港へ行くのと同様、中国人はマカオに行くための通行証、外国人はパスポートが必要で、フェリーに乗る前に出境手続き(=出国手続き)をして、マカオに着いたら入境手続き(=入国手続き)をする必要がある。

 マカオは大陸に接した半島部と、その南側にある小さな島からなっており、この島はもともと南北に隣接する二つの島だったのだが、島の間が埋め立てられ、今では一つの島となっている。半島側と島は海を渡る3本の大橋で結ばれている。

 マカオといえば、言わずと知れたギャンブルの町で、狭い町の中心部にはいたるところにカジノがある。また、マカオ半島の中心部にある「マカオ歴史市街地区」は、ユネスコの歴史遺産に登録されており、多くの観光客が訪れる観光都市でもある。

 そして、マカオ名物の食べ物といえば、なにはともあれ「エッグタルト」である。

焼き立てのエッグタルト。表面の焦げ目を見ただけで、もう口の中がたまらなくなってくる

 このエッグタルトを作り出したのが、アンドリュー・ストウ氏というイギリス人。ストウ氏は仕事の都合でマカオに赴任したのだが、1989年にマカオの島部の南側にあるひなびた村でパン屋「ロード・ストウズ・ベーカリー」を開いた。その後、ポルトガルを旅行した際に食べた「パステル・デ・ナタ」というカスタードクリームのタルトを自分の店で作ろうと研究し、母国イギリスの手法も加えて1990年に完成したのが、この「エッグタルト」なのである。

 サクサクのパイ生地の中に入ったカスタードクリームは程よい甘さとコクがあり、わずかに入った表面の焦げ目からは香ばしい香りも漂ってくる。一口ほおばると、口の中を甘美な快感が駆け巡る。1個が小さいので、2つや3つはペロリと食べられるのも嬉しい。

「ロード・ストウ・ベーカリー」の本店。こちらは販売専用で、すぐ近くにはカフェもある。日本にも進出しており、大阪を中心に13店舗ある

 このエッグタルトはたちまちマカオで大人気となり、マカオを代表するスイーツに。そして香港、台湾、中国大陸、東南アジア各地へと広まっていった。

 一方で、ストウ氏の妻であるマーガレットさんも、マカオの中心部で店を開き、パンやサンドイッチとともにエッグタルトを販売していった。

観光地巡りの中心部となるセナド広場の裏側の入り組んだ路地を入ったところにある「マーガレット・カフェ・エ・ナタ」。いつも地元客や観光客で店はいっぱい

 その後、二人は離婚したため別々の店となっており、エッグタルトのレシピも微妙に異なっているそうだが、味に大きな違いはなく、どちらも美味しい。マカオに行く機会があったら、ぜひ食べてもらいたいものの一つである。
おまけカット。セナド広場から伸びた細い路地を上ると、マカオで最も有名な観光名所「聖ポール天主堂跡」にたどり着く

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。