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中国美味紀行その76(日本編10)「四川省成都発祥“一人用の火鍋”──冒菜」

 2か月前の「中国美味紀行その72(日本編6)」で、火鍋の簡易版ともいえる麻辣燙(マーラータン)を取り上げたが、今回はそれとよく似た冒菜(マオツァイ)をご紹介する。麻辣燙と冒菜は非常に似た食べ物なのだが、果たして何が違うのだろうか。

“冒菜は一人の火鍋、火鍋は大勢の冒菜”

 麻辣燙は中国各地に広まっているので、日本人でも中国に住んだことのある人なら、一度くらいは食べたことがあるのではないだろうか。だが冒菜のほうは、食べたことがあるどころか、そんな名前の食べ物があることすら知らない人がほとんどだろう。筆者自身も四川省成都市に住んで初めて、冒菜なるものがあることを知ったほどだ。

 そんな能書きは後にしよう。ネットで見つけた、池袋駅北口エリアにある冒菜の店に行ってみた。そこで食べたのがこれである。

春雨+鶏肉+牛肉+きのこ1種+野菜4種が入って756円。具だくさんなのがよろしい

中に入っている春雨は細め。スープは酸辣、トマト、麻辣、カレーの4種あったが、冒菜といえば普通は麻辣のスープである 大きさはラーメン丼ほどで、今回はセットで頼んだが、中に入れる具材を自分で選ぶこともできるし、セットからさらに追加することもできる。

 以前に取り上げた麻辣燙の記事をご覧になっていただくと分かると思うが、どちらもそれほど変わらないように見えるのではないだろうか。実際、そんなに変わらない。冒菜のほうが食材がいろいろ入っていたというくらいだろうか。

具材は冷蔵庫の中で入れ物に入って並んでいるので、自分で選ぶこともできる。具材によって100円〜300円と値段が変わる

 冒菜と麻辣燙、どちらもスープは麻辣味で、野菜や肉などの具材を自分で選んで、煮込んでもらって食べるものである。中国の検索サイト「百度」(バイドゥ)で検索して調べたところ、どちらも発祥は四川省だが、冒菜の発祥が省都の成都であるのに対し、麻辣燙のほうは成都から南へ約125キロ行ったところにある楽山市が発祥とのことだった。

 で、2つの違いだが、中国においては、麻辣燙のほうは具材が串に刺さっていて、それを一本一本選び、1本いくらで値段を計算していくのに対し、冒菜のほうは冷蔵庫に並んでいる具材を自分でボウルに放り込んでいき、レジの前で重さを計ってもらい、その重さによって値段が決まるというシステムになっている。この時、野菜系と肉系では単価が異なるので、別々のボウルに入れる必要がある。違いといったらこれくらいだろうか。

 ほぼ同じようなものなのに麻辣燙のほうが中国全土に広まったのは、串に刺すことで値段計算がしやすく、量りも必要ないので、屋台展開しやすかったからだろう。実際、中国で麻辣燙といえば屋台形式のお持ち帰りの店がほとんどである。

 成都では「冒菜は一人の火鍋、火鍋は大勢の冒菜」と言われている。地元成都では昼食におやつに夜食にと、若い人たちに人気のある食べ物となっている。筆者は四川大学の近くにある冒菜の店にたまに行っていたが、いつも学生たちでいっぱいだった。

 四川の味がだんだん恋しくなってきた。
おまけカット。成都の飲食店でたいていテーブルの上に置いてある鉢鉢鶏(ボーボージー)。料理が出てくるまでのお通し的な存在。食べた串の本数分だけお金を払うシステムになっている。1本10〜20円ていど

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。