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中国美味紀行その80(日本編14)「麺料理の名前に隠された愛情物語──過橋米線」

 今回は雲南省の名物「過橋米線」(グォー チァオ ミー シエン)について。3回前のこのコラムでは、池袋駅西口にある店に過橋米線を食べに行ったところ、2〜3人前のものしかなかったので、諦めて別の米線を食べたら意外に美味かったという話を取り上げた。そこで今回は池袋を離れて、御徒町と秋葉原の中間地点にある店に過橋米線を食べに行ってみた。

麺と具材、スープが別々に出てくるのが特徴

 中国南西部にある雲南省はベトナムやラオス、ミャンマーと国境を接しており、山がちで少数民族が多い。料理としては山で採れるキノコ類を使った鍋物が有名だが、過橋米線も中国全土でその名を知られた名物料理となっている。

 以前も説明したが、米線は米で作られた麺で、過橋米線はそこにさまざまな具材を入れたものとなっている。具だくさんの麺料理は中国でも数多くあるが、過橋米線の場合はちょっと変わっている。麺と具材、スープが別々に出てくるのである。オーダーするとこんなふうにテーブルに並ぶことになる。

本場の過橋米線はスープに土鍋を使うのだが、日本の店ではさすがにそこまではやらない

いろいろな肉類のスライスが出てくる 豚や鶏でダシを取ったスープは熱々で、スープの表面に油が浮いているので冷めにくくなっている。ここにまず生の肉類を入れてスープの熱さで熱を通し、それから麺、野菜類の順に入れていただく。

 スープはあっさりしていて、日本の塩ラーメン系のお味。中国にいた時に一度食べたことがあるのだが、だいぶ前のことで、どんな味だったか忘れてしまったので比較ができない。いずれにしても、麺の量も多く、十分に食べごたえがあった。

すべて入れたところ。肉類は熱を通すために麺の下のほうに入れてある

 この過橋米線の由来にはいくつかの説があるのだが、その一つはこんな話である。今から百年以上前の清朝時代、雲南省の湖に浮かぶ小島で、一人の男が科挙に合格するために勉強に励んでいた。男の妻は毎日、ご飯を作って夫のいる小島に持っていくのだが、夫はすぐに食べないので冷めてしまう。あるとき鶏鍋を持っていったところ、鶏の油がスープの上に浮かびなかなか冷めなかったことから、妻はこれに米線を入れることを思いついた。夫がこれを気に入り、妻は毎日のように小島に向かう橋を渡って持っていったことから、過橋米線という名が付いたのだという。今でもスープと具材、麺が別々になって出てくるのは、その名残である。

 日本ではほとんど知られていない過橋米線だが、その名前の裏側には夫婦の愛情物語が隠されていたのである。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。