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中国美味紀行その101(日本編23)「質素な食事じゃないよ──台湾素食」

 素食というのは、質素な食事という意味ではなく、中国語で肉類や魚介類を一切使わない菜食主義の料理のことで、台湾では街中のあちこちに「素食」のレストランがある。そんな台湾の素食が東京でも食べられる。

大豆食品や豆腐、湯葉、麸などのグルテンで肉や魚の食感を再現

 最近は日本でも「ヴィーガン」(Vegan 完全菜食主義者)という言葉が徐々に知られるようになってはいるが、それでも欧米や東アジアの国に比べると、菜食主義の料理はまだまだ一般的ではないし、東京でさえヴィーガン対応のレストランを見つけるのは一苦労である。

 マレーシア華人の友人と東京に来ることになり、彼が仏教的な菜食主義の人だったので、ネットでいろいろ探して見つけたのが、台湾素食の店。しかもここは、単に肉類や魚介類を使わないだけではなく、精進料理では避けるべきとされている五葷(ごくん ネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、タマネギなどの匂いの強い野菜類)も使っていないということで、友人にぴったりだった(と思って連れていったら、実は彼は自分でここを見つけていて、その前日にも食べに来ていた)。

 メニューを見ると、日本の中華料理でもお馴染みの料理から、あまりお馴染みではない中国の料理まで並んでいる。これだけ見たら、とても菜食料理の店とは思えないような品揃え。でも、これらはすべて、豚肉“風”料理だったり、鶏肉“風”料理だったりするわけである。

棒々鶏に青椒肉絲、回鍋肉など、普通の肉料理の名前も並ぶ。わざわざ他に「野菜料理」もあるのが面白い

 というわけで頼んだのがこちらの3品。

豆鼓魚片(ドウ チー ユー ピエン)。豆鼓というのは黒大豆を発酵させて作る調味料

青椒肉絲(チン ジァオ ロウ スー)。言わずとしれた、ピーマンと豚肉の細切り炒め

腰果鶏丁(ヤオ グォー ジー ディン)。カシューナッツと鶏肉の炒めもの。腰果はカシューナッツのことで、形が女性の腰のようにしなやかな曲線を描いているから

 これらはもちろん肉や魚を使っていないのだが、大豆食品や豆腐、湯葉、麸などのグルテンを使って、肉や魚の食感を再現している。日本にもある「がんもどき」も、精進料理で雁の肉に似せて作られたから「雁(がん)もどき」と呼ばれるようになったと言われている。

 お味のほうも、本物とまったく同じ……というわけではないが、肉のような食感はあるし、味付けもこれはこれで美味しい。

 近年は外国から観光客が日本に押し寄せ、2020年には東京オリンピックで大勢の観戦客が短期間に殺到することが予想されており、菜食レストランの需要もそれなりにあることは明白である。だが、それに対して日本には、ヴィーガンレストランや素食の店が圧倒的に少ない。

 日本にもそういった店を増やしていくためには、日本人の間にも菜食主義が広がっていく必要があるが、現状を見るかぎりでは、なかなか難しそうである。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。