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吃貨美味探訪記 No.164(マレーシア編その18)「何でも美味しく食べるほうだが、これだけは……──榴蓮糯米飯」

 このコラムのタイトルは「美味探訪記」で、マレーシア編ではこれまで現地で食べてきた美味しいものをご紹介してきたが、今回は、正直いってあまり美味しくない……というか、食べたくなかったものである。だが、日本人にとっては思いも寄らない取り合わせの食べ物で、珍しかったのでご紹介しようと思う。

“匂いの暴君”ではなかったが……

 マレーシアのイポーに行くと、いつも泊まる現地の知り合い家の近くで、毎週月曜日の夜になると、通りを通行止めにして、夜市が開かれる。夜市のことをマレー語でpasar malam(パサル・マラム)といい、pasarはバザールから来ていて、malamは夜という意味である。

イポーの夜市。服や雑貨のほかに、果物・野菜、金魚、そして食べ物の屋台がずらりと並ぶ

 数多くの屋台が出ていて、しかも食べ物の屋台が多いので、非常に楽しい。イポーでの滞在日がちょうど月曜日にあたった場合は、必ず連れていってもらっている。

 ある時、知り合いたちと屋台の間をそぞろ歩いていると、あるものが目に止まった。それがこれである。

マレー語では「Pulut Durian」というらしい。Pulutはマレー語で「もち米」。RM7は7リンギット(今のレートで190円ちょっと) 発泡スチロールのケースに入っているのはドリアンの実(種つき)、もち米、そしてビニール袋に入っているのはココナッツの汁。見た瞬間、「うへえ、こんなものがあるとは。何でも美味しく食べるほうだし、ドリアンは大好きだけど、この組み合わせはちょっと……」

 こんなものをいったい誰が食べるんだ?と、食指が0.1ミリも動くことなくその場を離れたのだが、しばらくして家に帰ると、知り合いの親戚のうちの誰かが、これを買ってきていた。こんなものを食べる人がすぐ身近にいたわけである。

 夜市で買ってきた果物などをテーブルに広げてみんなで食べていると、種を取ってほぐされたドリアンともち米とココナッツの汁が一緒くたになったボウルが目の前に差し出された。そして、「一口だけでいいから食べてみなよ」と。

 出されたものは全て食べる、がモットーなので、意を決してボウルを手に取り、スプーンで恐る恐るすくい上げてみた。

 半透明の汁の中に浮かぶ、もち米とドリアン。ドリアンは「果物の王様」と呼ばれているが、何かと混ぜたり加工品にしたりすると、とたんに“匂いの暴君”になる。生のドリアンでは気にならないあの風味(ドリアン好きならば、の話だが)が、何十倍にもパワーアップされて口の中に広がるのである。

 しかし、スプーンから漂ってくる匂いはほのかで、それほど気にならなかった。そこで、思い切ってスプーンを口の中に入れた。とんでもない味だったら、味わうことなく飲み込んでしまえばいいと。

 口の中にほのかな甘味とドリアンの味が広がる。とんでもない味ではなかったが、うーん、なんともいえない不快感が口の中に広がる。というものの、これは決して不味いから不快感があるのではなく、ドリアンともち米とココナッツの汁という組み合わせが、精神的に受け入れられなかったからだと思われる。

 なんとか一口は食べきったが、さすがにそれ以上はスプーンを持つ手が動かなかった。きっと、これは美味しいものだと頭に思い込ませて食べていたら、もしかしたら本当に美味しいと感じていたかもしれない。

 もう一度食べてみたいとは思っていないが、もしまた誰かが買ってきて「食べてみろ」と言われたら、「これは美味いのだ!」と百回くらい頭の中で念じてから、食べてみようと思う。
おまけカット。イポー市内にある「極楽洞」(ケッ ロッ トン)は洞窟の中にある寺院で、観光名所の一つ

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。