中国美味紀行(四川編)―その1「かえる干鍋」

久々の新連載! 中国で食い散らかしてきた美味い料理の数々を、テキトーな文章でご紹介。日本ではあまりお目にかかることのない逸品ばかりだ。スタートは中華料理の花型・四川料理から。地方都市で友人にご馳走になったのは……

のっけから質問で恐縮だが、中華料理は地方別にいくつかに分かれているが、いくつ思い浮かべられるだろうか。

北京料理、四川料理、広東料理、上海料理……普通はまあこんなところだろう。

しかし、広い中国、これら以外にも実にさまざまな地方料理があり、どの地方の人たちも、おらが町の料理が中国で一番美味いと思っていたりする。

店先でローストダックがまるごとぶら下がっているのは広東料理の店とはいえ、でもやっぱこれにゃあ勝てないわなと誰もが認めるスーパースターが、広東料理と四川料理。中国のどこに行っても、広東料理レストランと四川料理レストランがあるほどだ。いわばリーガ・エスパニョーラにおけるFCバルセロナとレアル・マドリーのような存在。これに続くのが湖南料理、東北料理といったところだが、バレンシアやアトレティコ・マドリーと同様、2大巨頭に比べたら小物感は否めない。

日本だと北京ダックが有名な北京料理や、小籠包で知られる上海料理も人気があるが、実はどちらも中国では非常にマイナーな存在。特徴のあるサッカーをするけど目立たないビジャレアルやアスレティック・ビルバオのようなものだ。スペインサッカーを知らない人が読んだら、なんのこっちゃといった感じかもしれないが……。

というわけで、これからは中国の旨いもんをご紹介していきたいと思っている。登場するのは、餃子やシュウマイ、麻婆豆腐のような日本でも有名な中華料理ではない。日本ではほとんど食べることができないものばかりだ。ラーメンや焼き餃子、炒飯といった日本で独自の発展を遂げていった中華料理は日本人の口にも合って美味いが、それ以外はまだまだ。やっぱ中華は本場で食べるにかぎる。

四川料理の2大スーパースター

初回ということもあって前振りが長くなったが、これから取り上げていくのは四川料理、中国語でいうところの「川菜(チュアンツァイ)」である。というのも筆者、何を隠そう、というか隠す気もないが、かつて四川省の省都である成都に1年間住んでいたことがあるのだ。たかが1年だが、普通の人より四川料理には詳しい(と思う)。とはいえ、もう一方の広東にはなんだかんだで計6年ほど住んでいたのだが……。なんで広東料理じゃないのかというと、それは単に四川料理のほうが写真を多く撮っていたからという理由でしかない。

さて、ようやく本題に移ることにしよう。一口に「四川料理」といっても、地元の四川ではさらに地域ごとに細分化されていたりする。四川料理の2大スーパースターが、四川南部にある楽山と自貢の料理だ。

左側から岷江、右側から金沙江が合流して長江となり、写真前方に向かって流れていく。行き着く先は約2800キロ離れた上海とここまできたはいいが、実はこの二つの料理、どう違うのかよく分かっていない……。というわけで、このへんは後回しにして、初っ端にご紹介するのは、四川省の東南端にある宜賓(イービン)という町の料理。町といっても人口は500万人以上。13億人以上の人口を持つ中国では、500万人ていどの人口では田舎町レベルでしかない。宜賓と聞いてもピンと来ない人がほとんどであろうが、長江(揚子江)という名前の川は宜賓から始まり、日本に四川料理を広めた故陳建民氏の故郷でもある。

宜賓は楽山や自貢のすぐ南に接しているだけあって、料理も美味い。まあつまりは、四川はどこに行っても料理が美味いということである。

干鍋とは、いわば汁気の少ない鍋料理のこと。炒めものと鍋物の中間といったところで、宜賓に着いた夜、現地の友人にまずご馳走してもらったのが、カエルの干鍋。干鍋とは、いわば汁気の少ない鍋料理のこと。炒めものと鍋物の中間といったところだ。

中にはニラのようなものや、細い青ネギのようなものなどがたくさん入っていて、その下にカエルさんたちが埋もれているわけだが、これだけ見たら何の料理だか分からない。そこで、カエルさんだけ取り出して、なるべく原型を再現してみたのがコチラだ。

カエルさんだけ取り出して、なるべく原型を再現してみた大きさは頭から足の先まで5〜6センチ。口の中で骨と肉により分けていただく。四川料理だけあって、やっぱり辛い。でも美味い。ビールに合う! 身がもう少し大きいと食べやすいのだが、それだと逆に食べる前にグロさを感じてしまうかも。

次回からは、もう少し多くの四川料理をご紹介していく。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。