中国美味紀行その55(深圳編9)「中国で一番辛い料理──湖南料理」
- 2017/07/01 00:00
- 佐久間賢三
前回、四川省からは北隣の湖南省に次いで深圳に働きに出てきている人が多いと書いたが、今回はその湖南省の料理についてご紹介したい。日本ではほとんど馴染みがないが、中国ではけっこうポピュラーな料理である。湖南省から働きに来ている人が多い深圳には、当然ながら多くの湖南料理店があり、湖南出身の人だけではなく、その他の地域出身の人たちも、その味を楽しんでいる。
辛さの中にも味がある
湖南省は、広東省のすぐ北隣にある。省都は長沙(チャンシャー)市。日本人にはあまり知られていないように、内陸部のいたって地味な省なのだが、農業が盛んで主要な米の産地であり、また、今の中国共産党の中心となった毛沢東や劉少奇(りゅう・しょうき)、胡耀邦(こ・ようほう)の出身地でもある。
その湖南省の料理の特徴は、唐辛子を大量に使った辛さである。辛さでいえば四川料理が有名だが、四川料理が唐辛子とともに痺れる辛さの花椒(フアジァオ=山椒の一種)を使った麻辣(マーラー)味が特徴であるのに対し、湖南料理の場合は辛さに酸味が加わった酸辣(スアンラー)が特徴で、とにかく辛い。中国の料理で一番辛いとされ、辛さに慣れた四川人ですら「湖南料理は辛い」と言うほどである。
そんな湖南料理を代表する料理の一つが、これである。
湖南省は海に面していないため、魚料理には淡水魚が使われる。剁椒魚頭は、淡水魚の頭の部分をぶった切り、タテに真っ二つに割って、汁に浸して蒸した料理である。上に乗っている緑色のペースト状のものが剁椒で、これは唐辛子を発酵させて作った調味料である。これに刻みネギや豆鼓(ドウチ=大豆を発酵させた調味料)などを混ぜ、淡白な味の淡水魚の白身に深みのある辛さを加えていく。
写真の料理は緑色の剁椒を使っているが、赤い剁椒もあり、二つに割った魚の頭の左右で緑と赤の剁椒を別々に乗せて出す店もある。
淡水魚は調理してもやや生臭かったりするものが多いが、剁椒魚頭は唐辛子を大量に使っているので、その生臭さが消され、魚の白身が唐辛子の辛さをがっちりと受け止め、ヘビーメタルのような激しい重低音が口の中を揺さぶる。
この料理には茹でた麺が別に出てくる。魚をある程度食べ終えたら、麺を入れ、汁が十分に染み込んだところでいただく。鍋料理の後のうどんや雑炊のようなものである。
この剁椒魚頭、辛いものが苦手な人にはやや敷居の高い料理だが、まあ普通に辛いものが食べられる人なら、口をヒーヒー言わせながらも十分にその味わいを堪能できる辛さである。そして辛いもの好きにとっては、けっこうクセになる味である。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。