中国美味紀行その127(四川食い倒れ旅編16)「唇も心も痺れる美味さ──老麻抄手」
- 2020/07/04 00:00
- 佐久間賢三
成都中心部の安ホテルにチェックインして部屋に荷物を置き、外へと繰り出した。まず向かったのは成都一の繁華街である春熙路(チュン シー ルー)。以前に成都に住んでいた時にはなかったショッピング街をプラプラしたり、かつてよく行っていたデパートに行ったりしながら、四川らしいものをいくつか食べた。
アイスクリームにまで使われていた花椒
2006年の夏に中国人の友人たちと初めて成都に旅行で来た時、春熙路を歩いた。その時は、通りを行き交う女性たちがみんな美人に見えて、いつか成都に住みたいなどと冗談で言っていたものである。まさかその後、本当に成都に住むとは思ってもみなかったが。
しかし、成都に住むようになってから春熙路に行っても、かつてのように、目移りがするほど美人が歩いていると感じることは、なぜかなかった。おそらく、旅行中は視力が落ちるというか、審美眼が普段とは違ってくるのだろう。そういった経験はこれまで何度かある。
さて、筆者が住んでいた頃にはなかった、春熙路の東側に広がるショッピング街「太古里」(タイ グー リ)にも行ってみた。が、中国のショッピング街にありがちな、有名ブランドの店が並ぶだけで、なんら面白みを感じなかった。
つまらないから他のところに行こうと思って歩みを進めた時、面白いものを見つけたので食べてみた。それがこれ、「花椒冰淇淋」(フア ジァオ ビン チー リン)である。
花椒(フア ジァオ)はこれまで何度か説明しているが、四川料理の味の特徴である麻辣(マー ラー)の痺れる辛さのほうの麻味の素。冰淇淋はアイスクリームのことである。
普通のバニラアイスクリームの甘さの中に、時おり花椒の味が顔を覗かせる。特徴といえばそれくらいで、特に可もなく不可もなし。せっかくなのだから、もっと口が痺れるくらい花椒を利かせてほしかった。それに25元という金額も、この数日、朝食を10元(150円)前後で食べてきた身としては、かなり高く感じた。
春熙路から市バスに乗り、かつて住んでいたあたりに行き、四川を離れて以来、ずっと食べたかったものを食べた。それがこの「老麻抄手」(ラオ マー チャオ ショウ)である。
老麻抄手については、『中国美味紀行(四川編)―その8「食べているうちにワンタンとの対話モードに──老麻抄手」』でも取り上げているので、ぜひご覧になっていただきたい。
そこでも説明しているが、抄手というのは四川のワンタンのこと。それを麻辣味のスープに入れたものが、この老麻抄手である。抄手の量によって値段が変わり、まだそれほどお腹が空いていなかったので、一番少ない1両にした(“両”は中国の重さの単位。1両=50g)。
最初はそれほど辛さを感じないが、食べ進むにつれ痺れてくる唇。それでも、抄手を口に運ぶ箸が止まらない。どうやったらこの味を日本で再現できるだろう……そんなことを考えながら、懐かしい味を楽しんだ。次にいつ食べられるか分からないのだから、やっぱり2両(100g)にしておけばよかった。
いよいよ次回は、今回の四川旅行で食べた最後の食事である。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。