『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』(雨宮美季、片岡玄一、橋詰卓司/技術評論社)
- 2013/04/29 12:30
- 齋藤公二
「利用規約」をテーマにしたありそうでなかった本です。書名はHow to〜ですが、ただのハウツー本ではありません。個人情報やプライバシー保護をめぐる最近のトラブル事例を紹介しなから、エンジニアや経営者が何に配慮してサービスを作っていくべきかを解説しています。
最大の特徴は、第1章で利用規約の基本を説明し、それを受けて第2章で具体的なトラブル事例を解説し、第3章で具体的なサンプルに落としこんでいくといった構成のウマさでしょう。
例を挙げます。まず、第1章「3大ドキュメント超入門」では、「利用規約」「プライバシーポリシー」「特定商取引法に基づく表示」の3つの文書について説明します。個人情報とプライバシーについては、次のように書かれています。
セキュリティやプライバシーに敏感な人にはもはや当たり前のことかもしれまん。しかし、実際の企業は、プライバシーポリシーで保護の対象にする情報を「特定の個人を識別できる情報」と限定的に狭く定義しているケースが少なくないのだそうです。
次に、このことが実際にどういったトラブルにつながるかを、第2章「トラブル回避のための注意点と対応策」で解説します。第2章はFAQのような体裁をとっており、全部で16節。そのなかの8節「規約を成立させるための『同意』の取り方」と、14節「ユーザーのサービス利用履歴は、どこまで利用していいか」で、ユーザーの利用履歴に関するトラブルを扱っています。
事例としては、同意の取り方に問題があったとされ会社解散に至ったミログの「app.tv」、集団訴訟に発展したFacebookの「Beacon」、匿名データの分析が個人情報の識別につながったNetflixを紹介。そのうえで、サービス利用履歴についてトラブルを防ぐための対応策として、以下を挙げます。
ここまでくると、利用規約やプライバシーポリシーを作ることは、サービスを作ることであり、それはすなわち企業姿勢に通じるものだということに気づかされます。そのうえで、第3章「ひな形」で、これら対応策を具体的な利用規約やプライバシーポリシーへと落とし込んでいくわけです。
こうした構成の妙は、図表や事例の説明などでも見られます。図表やコラムは、実用性が高いオリジナル資料が数多く用いられており、説明も平易です。事例は、単にこれまでネットを賑わせたからというだけでなく、今後も引き続きトラブルになりそうなものが選ばれています。そんなふうに、細部にわたって丁寧に作られているので、利用規約を作る過程で、現在のサービスが抱える問題が何であるかがすっと頭に入ってくるのです。
本書の主張は「おわりに」で登場する「Kiyaku by Design」という考え方が端的に示しています。これは、利用規約のあり方を「Privacy by Design」、すなわち、「プライバシー侵害のリスクを低減するために、システムの開発において事前にプライバシー対策を考慮し、企画から保守段階までのライフサイクルで一貫した取り組みを行なうこと」(本書より)になぞらえたものです。
簡単に言えば、エンジニアや経営者が良いサービスを作ろうとするなら、問題意識を持って「利用規約」づくりに取り組み続けることが大切ということでしょう。また、サービスを利用するユーザーにとっては、利用規約をきちんと確認することで、そのサービスや企業の姿勢を評価することができるということでもあります。
(じゃあお前のところはどうなんだと言われると反省しきりですが)
書誌情報
著者:雨宮美季、片岡玄一、橋詰卓司
判型:A5判
束:19mm(実測)
重量:370g(実測)
ページ数:240ページ
発売日:2013年3月19日
価格:2280円+税
ISBN: 978-4-7741-5594-4