『SDN/OpenFlowで進化する仮想ネットワーク入門』(伊勢幸一/インプレスR&D)
- 2013/05/06 04:00
- 齋藤公二
ネットワーク技術にこれまで興味を持てなかった人向けの入門書です。興味を持てなかった人というのは、サーバインフラエンジニアや事業企画、管理、経営関連の人のことです。なぜそうした人向けの本なのでしょうか。本書の「はじめに」では、その理由について、次のように説明しています。
簡単に言えば、仮想化やクラウドの進展で仮想ネットワークの重要性が増し、サーバ管理者やITビジネスマンは仮想ネットワークと無縁ではいられなくなったということでしょう。もっとも、このことは、ITにかかわる多くの方がすでに実感していることだと思います。しかし、それまで興味がなかった人が仮想ネットワークの重要性を実感し、いざ学習しようと思っても、分かりやすく体系的に整理された資料や文献はありませんでした。本書の価値はまさにそこにあります。
目次を見てみましょう。Amazon.co.jpのこちらから確認することができます。構成としては、1章から3章までの前半で仮想ネットワークの歴史や業界動向、課題などを整理しています。また、4章から6章までの後半では、現在の仮想ネットワーク技術と今後の展望を解説しています。
4章と5章では「VXLAN」「NVGRE」「STT」「MC-LAG」「TRILL」「SPB」といった用語を解説しています。ネットワークの専門家であれば、それらを見るだけで、だいたいの内容が把握できるのかもしれません。また、専門家ではなくても、キーワード検索してその結果から記事をたどっていけば本書を読まなくても内容を理解できてしまうのかもしれません。しかし、ネットワーク技術に興味がなかった人が求めるのは、そうした辞書的な意味ではないでしょう。用語の背景やベンダーの動向をざっくりと把握し、それらが自分の仕事や自社のサービスにどんな影響をもたらすのかを求めているのだと思います。
本書の特徴は、そうした期待にこたえてくれることです。たとえば、3章の2節「仮想ネットワークによる問題解決のアプローチ」では、仮想ネットワークの課題について、次のように整理して、解決までの道筋を示します。
これを踏まえて、続く4章、5章で、エンドポイントモデルとしてのVXLAN、NVGRE、STT、ファブリックモデルとしてのMC-LAG、TRILL、SPBといった技術を解説していきます。VXLANやNVGREといった個々の用語については、いつから始まり、どんな取り組みが行われ、どのベンダーが実装し、何が課題になるかを説明しています。
説明にあたってのモットーは、「一般的なサーバインフラエンジニアやITビジネスマンにとってわかりやすい用語と表現を用いた。さらに、ネットワーク技術者ではない諸氏にとって、聞きなれない用語の意味や背景を解説し、個別に参照すべき規格名や標準化資料名をできる限り記載している」(「はじめに」より)とのことです。
頭から読み下すことができるガイダンス本で、かつ、後になって振り返ることもできるリファレンス本を作るというのは、なかなか骨の折れる作業です。その点、本書は、読み進めながら一段一段ステップアップできるように記述されていて、しかも、どこからでも読めるように作られています。
また、単なる用語の説明書きではない躍動感のある叙述に出くわすことができるのも本書の魅力です。以下は、6章「従来のネットワーク構築と運用」で、SDNと従来のネットワークの違いについて説明した箇所です。
本書によると、SDNという概念が提唱されたのは2009年8月、ニシラ(Nicira)創立者のニック・マキューン(Nick McKeown)氏らが中心になって開催したOpenFlow & SDNトライアルワークショップからです。それから3年あまりを経て、SDNやOpenFlowは、サーバやネットワークに関する仕事の内容を大きく変えるところまで影響力を持つようなりました。本書がこれまで興味のなかった人向けに書かれたということは、そうしたパラダイムシフトのあらわれでもあるわけです。
なお、本書は、電子書籍ファーストで刊行され、紙版をオンデマンドプリンティングする形式です。出版社が手がける新しい技術書の提供形態としても注目できます。
書誌情報
著者:伊勢幸一
発売日:2013年3月1日
価格:1680円(電子版 税込)、2520円(紙版 税込)
図版色数:4Cと1C
紙版判型とページ数:A5判198ページ
ISBN:978-4-8443-9575-1
Amazon ASIN:B00BLDZVWC
kobo 商品番号:4694844395750