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中国美味紀行(四川編)―その7「さすがにちょっと手を出しにくい――麻辣兎頭」

君はこれを食えるか?

 本編その3で宜賓の「ウサギ干鍋」をご紹介したときにも触れたが、四川でウサギの肉は非常にポピュラーな食べ物である。成都でもウサギ料理専門の店をよく見かけるし、また、食堂の店先のウインドーには、ちょっとビックリするようなものも並べられていたりする。

 それがコレ。「麻辣兎頭」。見た目そのまんまのネーミングだが、これは夏のビールのお供として、成都人になくてはならない食べ物らしい はっきりいって食べるところが少ない。薄いビニールの手袋をはめた手で持ち、頭蓋骨にひっついた肉を前歯でこそぎ落としながら食べることになる。このとき、じっくりとウサギさんの顔を見てはいけない。口のあたりに細かいスリコギ状の歯がびっしりと並んでいるのが見え、一気に食べる気をなくしてしまうこと請け合いだ。

 その難関を乗り越えて食べ続けると、お次はメインイベントの脳みそである。この脳みそこそ、麻辣兎頭のなかでも醍醐味の部分である。頭をかち割り、中をすするようにして食べる。ウサギさんだけに、脳みその量は少ない。

 筆者も四川人の友人たちにウサギ料理の専門店に連れられてこの麻辣兎頭を食べたことがあるのだが、出されたものをひたすら食べることに必死で、まったく味を覚えていない。覚えているのは、前述した細かい歯が並んでいる光景だけである。麻辣兎頭というからにはやはり舌がしびれるような辛さだったのだろうが、すでに舌は麻辣味に慣れていたので、それについても特に覚えていない。

あたりに漂う香ばしい香り

 日本人にとってもう少し食べやすいのが、兎の丸焼きである。ウサギさんを開いてタレに漬け込み、炭火でじっくり串焼きにしてある。焼きあがったら肉を手で裂き、秘伝の調味料とからませて出来上がり。やっぱり麻辣味だが、こちらは日本人にとってもビールに合いそうだ。炭火焼きだから、外はパリパリ、中の肉はジューシーウサギの丸焼きの名店「王碼手撕烤兎」は、いつでも行列ができるお店。平日の午後だというのにこの人数 とにもかくにも、四川人にとってウサギさんは大好物なわけである。ゲテモノというなかれ、ウサギ肉はフランス料理でもポピュラーな食材。日本でもその昔は、うさぎ汁なんていう食べ物は田舎のほうでは普通の料理だったのだ。

 ウサギの肉は、あっさりとしていて鶏肉に味わいが似ているというのだが、辛くて味がよく分からない。なんでも麻辣味にしてしまうのも、さすがにどうかと思う。
オマケカット。パンダがたくさんいる成都大熊猫繁育研究基地にて、子パンダのお昼寝

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。