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中国美味紀行(四川編)―その9「新しいスタイルの火鍋で人気急上昇中──串串香」

鍋に入れられている大量の串

 中国に住んでいるあいだに幾度となく火鍋を食べてきたが、成都に住み始めるまで、こんな火鍋があることを知らなかった。それが成都名物の串串香(チュアンチュアンシァン)。あちこちに「串串香」と書かれた看板の店があり、串焼きかなんかの店かと最初は思ったが(四川は串焼きも名物)、店内から通りに漂ってくる匂いは、まさにあの火鍋の匂い。唐辛子と花椒のエキスが蒸発してきたような、深く吸い込むとくしゃみが出てくるほど刺激的なあの匂いである。

「玉林串串香」という、成都で人気のチェーン店の一つ。中は清潔で、いつも人でいっぱい 開け放たれた店の窓から中を覗くと、テーブルの上にはやはりあの大きな鍋が鎮座して絶え間なく湯気を発しており、みんな楽しそうに鍋を囲んでいる。

 よく見ると、鍋に大量の竹串が入れられている。みんな食べるときにはその串を取り出して、焼き鳥を齧るように竹串についている具を食べたり、箸で小皿の上に具を落としてから食べたりしている。見るからに美味そう。簡単に言ってしまうと、具を串に刺した火鍋なのだが、これまで見たことがなかった(今では各地に店ができている。さすが人気の四川料理)。

握りしめられるだけの串をゴッソリと

 鍋は一人で行ってもつまらないので、四川に住む唯一の友人に頼んで、串串香の店に連れていってもらうことになった。その店がここ。

住宅街の中にある庶民的な店。行ったのは4月下旬で、外で火鍋を食べるには暑すぎず寒すぎず、ちょうどいい季節だった 地元で人気の店ということで、夕方6時半ごろに行って30分近く順番待ち。席につくと、まずは基本となるスープの入った鍋と飲み物を頼み、中に入れる具はセルフサービスで。その具がこちら。

肉や野菜など40種類近くのなかから自分で好きなものを取っていくスタイル 2人分だったので、この具を4本、この具は2本などとチマチマ選んでいるそばで、地元の人たちは大勢で来ているからか、串の本数など数えたりせず、手で握りしめられるだけの串を豪快にゴッソリと取っていく。実際のところ、1本1本の串についている具はかなり小さめで、煮込むと縮んでさらに小さくなるので、大量に取ってもまあ食べきれることは後から知った。

 取ってきた串を、煮えたぎる鍋の中にそのまま突っ込む。鍋のスープは例のごとく、火山から噴出した溶岩のようなどす黒い赤。ちょっと写真写りが悪いが、その時の写真がこちら。

味は当然、麻辣。でも、口から火を吹くほどではない 串に刺さっている具が小さいので、グイグイいける。適度な辛さでビールもグイグイ進む。串串香のいいところは、箸を鍋に突っ込まなくてもいいこと。具を取るには串を取ればいいだけだからだ。ただ、鍋は2人ではやっぱりちょっと寂しい。少なくとも4〜5人はほしいところだ。

 さてお代のほうは、鍋のスープ代+食べた串の本数で計算。野菜などのコストが安い具には串1本だけが刺さっているが、肉などの高い具には一つの具に串が2本とか3本とか刺さっている。回転寿司のようにネタによって皿の色分けをするより、計算が楽だ。

 今回は二人だけだったから次は成都美人2〜3人と一緒に来たいものだと思ったのだが、その夢は果たせないままになっている。
オマケカット。成都の中心地を流れる錦江にかかる橋の上を、そのまま高級レストランにしている。この橋は2003年に復元されたものだが、もともとの橋は古くからあり、マルコ・ポーロの『東方見聞録』でも、印象に残った4つの橋のうちの一つとして取り上げられているそうだ

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。