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中国美味紀行(四川編)―その10「麻辣味がビールのお供にピッタリ──鉢鉢鶏」

鉢の中に漬け込まれた大量の串

 成都の飲食店に入ると、テーブルの上に大きなすり鉢のようなものがデンと置いてあることがある。そのすり鉢の中には、例のマグマのような赤黒い色合いの汁に、串に刺さった具がたくさん浸してある。

鉢鉢鶏とあるが、具は鶏肉とは限らず、レンコンを中心に野菜系の具も豊富 誰も座っていないテーブルにも置いてある。最初は前の客の食べ残しかと思ったが、どのテーブルにも置いてあるからそうではない。実はこれが、成都名物の小吃「鉢鉢鶏」(ボーボージー)。串は勝手に食べてよく、食べた串の本数分だけお金を払うシステムになっている。金額は店によって異なるが、野菜系の具が1本0.5〜1元(10〜20円)で、肉系の具が0.7〜1元(14〜20円)くらい。

 前回ご紹介した串串香(チュアンチュアンシァン)といい、今回の鉢鉢鶏といい、そして日本でもよく知られた四川料理の一つである棒棒鶏(バンバンジー)といい、“◯◯×”という名前の料理が四川料理には多いようである。そういえば、担担麺(タンタン麺)も成都発祥だ。

 ピリッとした辛さがビールにピッタリで、つまみにちょうどいい。ただ、確かに1本の値段は安いのだが、具が小さいのでつい何本も食べてしまうと、意外に高くついてしまいそう。頼んだ料理が出てくるまでの前菜にとどめておいたほうがよさそうだ。

“狼の牙”に“夫婦の肺”とは?

 この他にも、成都にはさまざまな“ビールのつまみ系”小吃がある。そのなかでも筆者が好きなのがコチラ。

「狼牙土豆」(ランヤートゥドウ)。土豆=ジャガイモ。これで5元(100円)ていど 短冊切りにしたジャガイモを茹で、麻辣味のタレで和えたもの。ギザギザに切った形から付けたのだろうか、狼の牙とはなかなかかっこいい名前だが、成都では一般的に「洋芋花花」(ヤンユーフアフア)とも呼ばれているらしい。ジャガイモに適度に染み込んだ麻辣味がビールのお供にピッタリ。日本で売ってもけっこう人気が出ると思う。

 続いての“ビールのつまみ系”小吃がコレ。

「夫妻肺片」(フーチーフェイピエン)。店にもよるが、1皿で15元(300円)ていど “夫妻の肺片”とは、食べ物の名前としてはタダナラヌものを感じるが、実際は牛の臓物系を茹でて麻辣味のタレと和えたもの。1930年代、成都で屋台をやっていた夫婦が、“廃片”として捨てられていた臓物を使ってこの料理を作り始めたことから、この名前が付いたという。中国語で廃と肺は同じ発音であり、縁起の悪い廃の代わりに肺の字を使うようになったようだ。

 これはビールも合うが、上の二つの料理に比べて味が濃いので、白酒(バイジウ)の安酒ともよく合う。バイジウとは、日本の白酒(しろざけ)とはまったく違い、原料に高粱(コーリャン)などを使った、マオタイ酒を最高峰とする中国の蒸留酒のこと。ちなみに、写真に写っているのは二鍋頭という最底辺の安酒で、アルコール度数が50度以上もあり、毎日飲んだら肝臓と胃腸を壊すこと間違いなしのシロモノだ。

 決して意図していたわけではないのだが、奇しくも3つとも麻辣味のタレに漬け込んだ食べ物となった。やはり四川料理といえば麻辣味なのだ。

オマケカット。成都市内にある人気観光名所の一つ「錦里」。すぐ隣には、三国志に出てくる諸葛亮やその主君の劉備、関羽、張飛などが祀られている武侯祠がある

錦里の中は昔の街並みを再現した通りになっており、お土産屋や屋台などが並ぶ

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。