中国美味紀行(四川編)―その11「日本でもお馴染みだけど日本とは全然違う──担担麺」
- 2015/09/05 00:00
- 佐久間賢三
成都を代表する麺料理
四川の麺料理のトップバッターは、なんといっても「担担麺」(ダンダンミェン)。これは1841年ごろに陳包包という男が成都が売り始めたのが始まりとされている。売り歩く際に使った天秤棒のことを四川語で「担担」ということから、この名前になったという。
そして、成都で食べられている本場の担担麺がこれ。
小さなお椀にタレ、麺、そして肉のそぼろが入っていおり、日本の担担麺とはまったくの別物。日本の担担麺は大きなラーメン丼に胡麻ベースのスープと肉のそぼろ、店によっては少量の青菜が入っているのが普通だが、これは日本に四川料理を広めた故陳建民氏によって改良されたものとされている。
これを、タレがお椀からこぼれないようによく混ぜて、麺とタレ、肉のそぼろを絡ませてからいただく。ピリリと辛いが、辛すぎるということもなく、誰でも食べられる。
辛さと腸の甘みがマッチ
次にご紹介するのが「肥腸粉」(フェイチャンフェン)。中国で「麺(簡体字では面)」というと材料は一般的に小麦粉だが、「粉」と呼ばれるほうは米の粉が材料。しかし、肥腸粉に使われているのはサツマイモだ。といっても甘いわけではなく、麺が少し透明がかっている。
具に使われているのが、その名のとおり豚の腸の部分。スープはかなり辛く、食べているうちに口から火を吹き出すほどだが、この腸の甘みがスープの辛さと調和して、絶妙の味わいとなる。
魂が抜かれるほど美味い!?
今回の最後が「勾魂麺」(ゴウフンミェン)。成都の南にある自貢市が発祥で、明朝末期(17世紀前半)からある麺だという。「勾魂」とは魂を抜くという意味。つまり、魂が抜かれるほど美味いということらしい。
明代に自貢で塩の販売業を営んでいた胡という男が、買ってきた肉を誤って塩の山に落としてしまい、探したが見つけることができなかった。しばらくしてから見つかったのだが、捨てるにはもったいなかったので、細かく切って麺に入れたところ、ことのほか美味かった。
数年後、塩の販売業は経営が傾いて廃業し、胡も亡くなった。ところが、胡の息子が父親が作った麺を再現し、「胡記勾魂麺」として町で売り歩いたところ、大人気に。それが今になっても続いているのだという。お味のほうは、担担麺をもう少しマイルドにした感じで、麺が細いからかツルツルと口の中に入っていく。
担担麺といい、勾魂麺といい、単なる麺料理なのにそれぞれストーリーがあって面白い。というわけで、今回から続けて計2回にわたり、成都「麺紀行」をお送りしていく。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。