中国美味紀行(四川編)―その12「怪しい味の麺とは──怪味麺」

 前回に引き続き、成都「麺紀行」の第二弾。今回は汁あり麺を3つご紹介する。

辛くて酸っぱくてしょっぱくて甘くて

 まず最初にご紹介するのが「怪味麺」。“怪味”とはタダナラヌ名前だが、見た目はご覧のとおり、いたって普通だ。

「怪味面」7元(135円)。麺は2両(100g)とやや少なめ。小さいお椀で出てくる 怪味麺は成都発祥。海鮮と豚肉の風味が交じり合い、味付けは麻辣で酸っぱくてしょっぱくて甘い。だから「怪味」。なんでも、海鮮味の汁あり麺に誤って麻辣味の肉そぼろを入れてしまい、食べてみたら不思議な味だけど美味しかったのが始まりだとか。けっこう期待して食べてみたのだが、なんだかボヤけた味にしか感じられなかった。怪味は四川料理の特徴的な味付けの一つらしく、怪味鶏という鶏肉料理もある。

 続いての汁あり麺が、こちらの「木花金絲麺」。

「木花金絲麺」麺2両(100g)で8元(150円)。甘辛く煮た椎茸が味のアクセントに これは成都のすぐ北方にある広漢市の麺料理。薄く伸ばした麺の生地を何層にも重ね、それを細く切っているので、麺がやや平べったく、金の糸を思わせるようだから「金絲麺」という名前が付いている。

 スープのベースは鶏ガラのようで日本の塩ラーメンに似たさっぱりとした味わい。まったく辛くない。「木花」は菊の花という意味で、スープが黄色っぽいので目立たないが、花びらが少し浮かんでいる。日本人にはどことなく懐かしい味わいで、麻辣味に疲れた胃にスープが優しく染みわたるのが嬉しい。こちらはそれほど期待しないで食べたのだが、逆に想像していた以上に美味かった。

まるでトコロテンのように

 そして最後が「牛肉蕎麺」。「蕎」という名前のとおりソバである。

「牛肉蕎麺」10元(190円)。スープの味は可もなく不可もなく これは成都の老舗といわれる蕎麦屋で食べたもの。中国にはいろいろな麺があるが、ソバは成都で、しかもこの店でしか食べたことがない。この店では店頭に木製の製麺機が備え付けられていて、注文が入るとトコロテンのようにギュゥッと麺を絞り出して湯の中に入れて茹でる。

注文が入るとおじさんが一人前ずつ絞り出す。ただ、茹で湯の色が気になるんですけど…… 初めてこの店に行った時に食べたのは「涼蕎麺」。名前からして冷やしたぬき蕎麦のようなもの想像していたのだが、たしかに汁なしだったがやっぱり麻辣味。なのでソバの味がまったく分からず。というわけで、再チャレンジで2回目に行った時には汁あり麺にして、辛くしないように頼んだ。

 それでようやく味わえたソバの味は、よく言えば「素朴で野趣あふれる」、悪くいえば「何の工夫もなく単にソバを練って茹でただけ」。店は客の入りもよく、けっこう繁盛していたが、日本人にとってはまったくもって物足りない味わいだった。

 今回は期待はずれのものが2つもあったが、成都「麺紀行」最終回となる次回は、お気に入りの麺をご紹介する。
オマケカット。三国志に出てくる蜀の宰相・諸葛孔明が祀られている「武侯祠」は、成都で一番の観光名所。諸葛孔明の主君である劉備や関羽・張飛らも一緒に祀られている武侯祠の中にある諸葛孔明の像

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。