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中国美味紀行(四川編)―その13「甘さと辛さが前後して口の中で踊り出す──甜水麺」

前回、前々回に引き続き、成都「麺紀行」の最終回となる第三弾。今回は汁なし麺を3つご紹介する。甘いの辛いのいろいろあり。

さまざまな風味や歯ざわりが交互にやってくる

おそらくこれは成都でしか食べられないのではないだろうか。甘い水の麺と書いて「甜水麺」(ティエンシュェイミェン)。見た目もこれまでご紹介してきた麺類とはかなり違う。

「甜水麺」6元(約114円)。小さなお椀に入って出てくる見てのとおり、麺がうどんより太い。しかも太さも不揃いで、まるで手で捻り出して作ったかのよう。そして、見た目そのままに歯応えもたっぷりで、英語のchewyという言葉がぴったり合う噛み心地。グミにさらに弾力性を加えた感じといったら分かりやすいだろうか。きな粉のような粉はピーナッツを細かく砕いたものだ。

お味のほうは、胡麻ペーストをベースにしたタレが甘辛く、ニンニクが味のアクセントに。ピーナッツの風味も効いている。口に入れるとまず甘みを感じて、麺を噛みしめていくうちに辛さがにじみ出てくる。タレには少量だが唐辛子と花椒も入っているようだ。

そして麺のモチモチした噛み心地と、ときおり感じるピーナッツのコリコリした歯触りが、口の中で心地よい不協和音を奏でる。量も少ないので、おやつにぴったりの一品だ。

唐辛子のストレートパンチが強烈

続いては、四川料理の麺らしく、辛味のストレートを小気味良く繰り出してくる「素椒牛肉麺」(スージァオニゥロゥミェン)。四川ではお馴染みの麺料理だ。

「素椒牛肉麺」5元(約95円)。写真の麺の量は1両(50g)で、やはり小さなお椀に入って出てくる見た目は前々回に紹介した担担麺に少し似ているが、麺が担担麺よりも細い。上に乗っているのは、細かく刻んだ生唐辛子と牛肉そぼろを和えたもの、そして刻んだ青ネギと、いたってシンプルだ。

たいして辛そうには見えないが、よく混ぜあわせてから口の中に入れると、生の唐辛子が繰り出すストレートパンチが舌の味蕾を攻撃してくる。いつしかそれが口全体に広がっていき、辛いものが苦手な人は火を噴くことになる。

燃え上がるほどに……

そして最後は、以前の宜賓編でも登場した「宜賓燃麺」(イービンランミェン)。

「宜賓燃麺」8元(約152円)四川省南東部の宜賓発祥の麺だが、成都市内でもあちこちに宜賓燃麺の店が出ていた。麺がすでにタレと和えてあり、芽菜という漬物とピーナッツ、青ネギがトッピングされている。上の写真の燃麺には、肉のそぼろも乗っかっている。

燃麺という名前の由来は、口の中が燃え上がるほど辛いから……というわけではなく、麺を混ぜあわせるのに油を使っているため、火をつけたら燃えるんじゃないかということかららしい。でも、実際に火をつけてもおそらく燃え上がったりはしないと思う。

味のほうもピリ辛で、お昼ごはんにちょうどよさそうだ。

9種類を3回に分けてご紹介した成都の麺料理。この他にもさまざまな麺料理が成都にはあり、その全部を食べきることはできなかった。中国は麺類発祥の地とも言われているだけあって、なかなか奥深いものがあるのである。ただ惜しむらくは、化学調味料使いすぎのところが多いといったところだろうか。
オマケカット。バス停にあったオフィスビルの広告。文字にある「伊藤」とは、イトーヨーカドーのこと(中国語で書くと伊藤洋華堂)。成都では人気ナンバーワンのデパートで、建物の下や近くにヨーカドーがあるだけで分譲価格がアップする

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。