中国美味紀行(四川編)―その15「全国チェーンにもなって人気の蒸し鍋──三汁燜鍋」
- 2015/11/07 00:00
- 佐久間賢三
予告なしにいきなりお見合い
実は成都に住んでいるあいだに、一度、相親(お見合い)をした。
お見合いといっても、中国の“相親”はもっと気軽なもので、未婚同士の友だちを紹介して一緒に飯を食べて、知り合うきっかけを作るという程度のもの。もし互いに気が合えば、携帯番号を交換するなり微信(中国版LINE)の番号を教え合うなりしてその後も連絡を取り合うし、気に入らなければ、そのままサヨウナラ、もう二度と会うこともない。
その相親をやったわけだが、別にお見合いをしたかったわけではない。ある日、成都に住む友人からメッセージが来て、「女朋友(彼女)を紹介してあげるよ。どう?」といきなり言ってきたのが始まりだった。
「ハハ、ありがとう。でも、今は仕事に集中したいよ」と柔らかくお断り。でも、友人はそんなことはお構いなしに「42歳、上場した会社のCFO、離婚して15年。娘がいる。美人だよ」と、勝手に向こうのことを書き出してくる。
「いやあ、オレ、今は彼女はいらないから。友だちならいいけど」
紹介されるのが42歳でもいい、離婚していてもいい。でもね、娘がいるっていうのは……。離婚して15年で娘がいるっていうことは、娘は少なくとも高校生なわけで。さすがにいきなり女子高生のパパにはなれない。それに、女性(友人は女性)の言う「美人だよ」というのは、まあたいていはアテにならない。
それで話は終わったものと思っていたのだが、週末になってその友人が「月曜日の夜に一緒にご飯を食べよう」と言ってきた。それはよくあることなので、指定されたレストランに行ってみたら、友人とともにその42歳の女性も来ていたというわけだ。というわけで、お見合いというわけではないが、それに近いものだったわけで。
全国チェーンに発展した鍋料理
さて、すっかり前置きが長くなってしまったが、「美味紀行」というからには、ここからが本題。この時に食べたのは、ちょっとすき焼き風の鍋。それがコレだ。
この鍋の名前が「三汁燜鍋」(サンヂーメングォ)。中国の鍋物にしては珍しく、最近になって開発された鍋物で、2000年代初め頃、清朝時代の香辣汁魚という食べ物を改良してできたものらしい。その開発者がこの鍋物のレストラン「黄記煌」を開き、今では全国展開するチェーンにまでなっている。
初めて食べたのだが、かなり美味かった。分厚くスライスされた川魚と甘辛いタレが意外にマッチして、どじょうの濃厚な味がアクセントとして効いている。もう食べてる時は相手そっちのけ。ちなみにお見合いの結果は、普通に一緒にご飯を食べて、そのまま家にお持ち帰りをした。お持ち帰りしたのは、もちろん食べきれなかった鍋物の残りである。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。