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中国美味紀行(四川編)―その16「四川省にもチベット族はいる──羊の丸焼き」

3千メートルの高地へ

 今からもう9年ほど前のことになる。中国の深圳という都市で働き始めてもうすぐ1年という時、会社の同僚の女性(中国人)から、一緒に旅行に行かないかと誘われた。といっても、残念ながら艶っぽい話ではない。学生時代の同級生4人で四川旅行に行くのだが、若い女の子だけで行くのはいろいろ心配らしく、要は“番犬”として誘われたわけだ。

 まあそれでも、20代前半の女性たちと旅行に行くチャンスなど滅多にないので、具体的に四川のどこに行くのかも分からないまま、というか、四川がどこにあるのかもよく分からないまま、一緒に行くことにした。まだあの頃は、中国に関する知識も、中国語のレベルもまだまだ。それから数年後には自分が四川に住むことになることなど、知る由もなかった。

 深圳から飛行機で成都に向かい、そこで一泊した後、翌日の朝早くには荷物をまとめ、観光バスに。高速道路2時間も走るとバスは山道へと入っていき、ロクに舗装もされていない道を上っていった。

 途中で休憩したりしながら、5時間も走ってようやく目的地に。覚束ないリスニング能力でなんとか聞き取ったガイドさんの話によると、このあたりの標高は3千メートル以上、ところによっては4千メートルを超えるところもあるのだという。富士山でさえ五合目までしか登ったことがないのに、いきなり標高3千メートル超えを経験してしまったわけである。

バスが途中で止まったところでの風景。この時点でかなり高いところまで来ていた これは後から知ったのだが、四川省の平野部は省の東側3分の1ほどで、あとの3分の2は標高3千メートルを超える山岳地帯。そこがパンダの故郷なわけだが、この山岳地帯に住んでいるのは、ほとんどがチベット族の人たちである。つまり今回の旅行の目的地は、チベット族が住む村だったわけである。

 標高3千メートル超ともなると、さすがに空気が薄い。軽い高山病にかかったらしく、後頭部あたりがズキズキと痛んだ。

民族ショーのあとはディナータイムへ

 小さなホテルの部屋に荷物を置き、夜になって近所の小屋のようなところの中に入ると、地元のチベット族の人たちによる民族ショーが行なわれていた。バター茶が振る舞われ、民族衣装を着けた女性たちが踊ったり歌ったり。

チベット族の民族舞踊。体をけっこう激しく動かして踊る ショーをやっている最中、開場の真ん中に、こんがりと焼けた羊の丸焼きが運ばれてきて、最後の仕上げに炭火の上でさらに焼かれた。“羊の丸焼き”と書いたが、実は確かではない。大きさからいって羊かなと思っただけである。それがこれである。

丸焼きといってもかなり平ぺったくなっているので、“羊の開き”といったほうがいいかもしれない そしてショーが終わると、ディナータイム。メニューはこの羊の丸焼き。以上。他になにか出たかもしれないが、全然覚えていない。写真にも写っていないから、ホントにそれだけだったのかもしれない。肉が切り分けられ、中国人観客たちに配られていった。

ナイフで肉を大雑把にさばいてから出してくれる 味は覚えていないが、スパイスが効いていて、羊肉の臭みはまったくなかったように思う。高山病の影響であまり食欲がなかったが、それでもパクパク食べたような記憶があるから、けっこう美味かったのだろう。

肉は手づかみで。下に写っているのがバター茶。味は覚えていないが、みんなほとんど残しているところからして、口には合わなかったのかもしれない 翌日は、頭痛を抱えながらも、馬に乗っていく山岳高原ツアーに行き、なかなか面白かった。チベット族というと、中国国内では迫害されたりしていろいろな問題を抱えているが、ここで出会った人たちが今でも平和に暮らしていることを祈るのみである。

山岳高原ツアーにて。雨でぬかるんだ泥道でも馬たちは足を滑らすことなく進んでいく 3日め、ようやく高地にも慣れ、頭痛も治まって食欲も出てきたという時に、残念ながらお帰りとなった。途中、山奥にあるパンダ研究センターに立ち寄り、コレでもかっ!というほどの数のパンダを見て、成都に戻った。パンダはやはり子供の頃が一番かわいい。

パンダ研究センターにて。パンダは意外に木登りが得意なようで、かなり高いまで登って昼寝をしていた 旅行を終えて深圳に戻ってきてからの大きな変化は、中国語の会話能力がグンと上がったこと。それまでの1年間、学校に通って中国語の勉強はしていたのだが、会社には日本語が話せる中国人の同僚がいたので、どうしてもそれに頼ってしまい、それほど会話能力は上がっていなかった。

 ところが、そのとき一緒に旅行に行った彼女たちは誰も日本語が話せなかった。彼女たちと中国語オンリーで4日間を暮らしたことが、かなり中国語脳を活性化させたらしい。やはり語学は習うより慣れろである。

オマケカット。成都動物園にて。この動物が本当に存在するとは思ってもみなかった。「馬鹿」。鹿系の地味な動物だった

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。