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中国美味紀行(四川編)―その18「(重慶・後編)麻辣の都・重慶の名物甘味──フ陵油醪糟」

あの有名アニメに出てきた建物のモデルか?

重慶には、日本人が見たら思わず「オオッ、これは!?」と思わず叫んでしまうであろう場所がある。それが洪崖洞(ホンヤードン)である。

写真ではよく分からないが、川沿いにある急な崖に沿って建物が建てられている何かに似ていないだろうか。そう、ジブリアニメ『千と千尋の神隠し』に出てくる湯屋「油屋」に、なんとなく似ている気がする。とはいえ、油屋の建物デザインには特定のモデルはないそうなので、似ているのは単なる偶然のようだ。中は温泉宿ではなく、土産屋とレストランが集まった、いわゆる観光客向けの商業施設となっている。

崖にもたれかかるように建てられているので、、エレベーターやエスカレータで上階に上がっていくと崖の上側の地上階に出るという、不思議な造りだ。洪崖洞自体は2300年以上の歴史があるそうで、そこに「吊脚楼」という四川一帯に住む少数民族の建築様式で建てられている。

上から眺めた洪崖洞。中央に見える小路は4、5階あたり。そこが土産屋&食堂街になっている

洪崖洞の土産屋&食堂街

かつては食前に客人に出していたというが……

ここの食堂街で食べたのが、重慶名物の甘味である「フ陵油醪糟」(フは「倍」のにんべんをさんずいにした漢字)。

「フ陵油醪糟」10元(190円)。右にあるのは、以前に宜賓編で紹介した、日本のくず餅にそっくりの涼糕(リァンガオ)フ陵(フリン)は重慶市中部にある地域の名前で、長江(揚子江)沿いにあることから交通の要衝として栄えた街で、清の時代には「小重慶」とも呼ばれていたそう。フ陵油醪糟は地元の人が客人を招いた際に食前に出した食べ物で、1799年に作られたという記述があるというから、もう200年以上の歴史があることになる。

そもそも甘い物というのは、食前に食べるとそのあとあまり食事が食べられなくなる。旅館などで部屋に入るとテーブルの上にお饅頭のような甘いものがサービスとして置いてあったりするが、あれも実は、夜の食事を少なく出すための旅館側の策略だという説もある。重慶で客人にフ陵油醪糟を出したのも、もしかしたら同じ考えからだった……というのは考えすぎか。

閑話休題。このフ陵油醪糟、汁のベースはもち米で作る醪糟(ラオザオ)というお酒で、日本の甘酒のようなもの。これに黒ゴマや砂糖、油、ピーナツ、クルミなどを入れて甘く仕上げ、お餅のような白玉を入れる。濃厚な味だが、それほどしつこい甘さではない。とはいえ、やはりこれを食べたら、お腹いっぱいになって食事はそれほど食べられなくなるだろう。

重慶といえば、麻辣味の四川料理以外に、美女の三大産地の一つとしても有名だ(諸説あるが、それ以外の2つは東北地方のハルピンと四川省の成都)。次回はぜひ、美食だけではなく、重慶美女との出会いも味わいたいものである。

オマケカット。成都東駅。まるで空港の出発ロビーのようだが、鉄道の駅。これだけ広いのに、使われているのは全体の3分の1ていど

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。