中国美味紀行(四川編)―その19「(四川編最終回)春節を迎えるための保存食──四川臘肉と香腸」
- 2016/01/09 00:00
- 佐久間賢三
19回めを迎えた四川編も、今回が最終回。「食は成都にあり」と地元成都人が豪語したように、麻辣味が多めながらも、さまざまな美味に出会うことができた。四川編最終回となる今回は、あと1か月近くまで迫った中国のお正月「春節」を迎えるための素材をご紹介しよう。
家族一緒に過ごす春節で食べるものとは
今では日本でもすっかりお馴染みとなった中国の旧正月「春節」(チュンジエ)。太陰暦の新年であるため、一般的な太陽暦の正月とは日付がズレている。2016年の春節初日は2月8日(月)。中国では春節の期間中、公的に1週間のお休みとなり、2016年は2月7日(日)から13日(土)までとなっている。昨年ほどではないかもしれないが、おそらく今年も、この期間中に多くの中国人観光客が日本を訪れ、「爆買い」していってくれることだろう。
とはいえ、中国人のみんながみんな、春節期間中に旅行をするわけではない。むしろ春節は家族一緒に過ごすことが中国人の伝統であり、多くの人々が故郷に帰って両親や親戚たちと春節を迎える。
となると、必要になってくるのが春節を迎えるための料理。日本のおせち料理と同様、春節の数日間は食料の買い出しに行ったり料理を作らなくても済むよう、年末のうちから保存の効く料理を準備しておく。
日本でも地方によっておせち料理の中身に違いがあったり、お雑煮の餅の形や汁の作り方、具の材料に大きな違いがあったりするが、それは中国も同じ。いや、日本の約25倍の面積を持つほど広い国だけに、地方によって春節に食べる物がまったく違っていたりする。
四川省でもさまざまな春節料理があると思われるが、そのうちの重要なものの一つが臘肉(ラーロウ)と香腸(シァンチャン)である。四川省では冬場になると、家の窓に煤けて黒っぽい塊がいくつもぶら下がっている光景が見られる。これが臘肉。日本語では「塩漬け干し肉」とでもいえばいいだろうか。四川臘肉の場合は、これを燻製にしてから干すようだ。香腸のほうは臘腸ともいうのだが、こちらは腸詰め、いわゆるソーセージである。
日本に送ってもらいたいほど美味
以前ご紹介した四川省南部の宜賓に住む友人が、自家製の臘肉や香腸などを春節前に送ってきてくれた。それがこれ。
写真右側と中央にあるのが臘肉だが、右側の塊など燻製されたことによって黒光りしていて神々しいほど。どちらも脂身たっぷりだ。左上にあるのが香腸で、下の2つは漬物である。
臘肉はまずは塊ごと20分以上茹でろと友人から言われたので、茹でてみた。それをスライスしたのがこちら。
見た目からもなんとなく想像できそうだが、味はベーコンのようだった。これを野菜と一緒に炒めたりして食べるのが普通なようだが、それも面倒だったので、そのまま食べた。感想としては、可もなく不可もなく、ふーん、こんなものかといった程度。まあ、日本のおせち料理だってお正月だから食べるのであって、特別美味しいわけではないとの同じか。
しかし、香腸のほうは違った。同じく20分以上茹でてからスライスしたところ、想像していなかったもの、いや、よく考えてみれば四川の食べ物なのだから想定の範囲内ともいえるものが入っていた。それがこれだ。
腸詰め自体の味はそれほどしつこくなく、どちらかといえばアッサリしているのだが、ときおり現れるこの花椒の塊が、腸詰めの味に嬉しいアクセントを加えてくれる。花椒好きにはタマらない味だ。
これはぜひ友人から日本に送ってきてもらいたいほどだが、残念ながら検疫の関係上、肉製品は日本に送ってもらうことができない。
あの漬物も手作りだった
そして最後が、上の写真の真ん中下にあった漬物である。1個が握りこぶしよりやや小振りなのだが、真空パックから取り出してみて初めて、これが何か分かった。それがこれだ。
そう、これはザーサイである。漢字で書くと搾菜(ヂャーツァイ)。搾菜そのものは野菜の名前で、芥子菜の一種。根と茎の間あたりが肥大していて、それを漬物にしたものも搾菜と呼ばれている。形からすると、丸い塊の下の部分を少しだけ残すようにスライスして、間に唐辛子などの香辛料を挟み、また丸く戻して漬け込んでいくのだろう。
これは四川を代表する漬物だが、比較的歴史は浅いようで、19世紀と20世紀の境目あたりに、前回登場した重慶のフ陵で作られたのが始まりとされている。味は、唐辛子たっぷりなので、日本で売られているものに比べるとかなり辛くてしょっぱい。スライス1枚でご飯半杯はいけそうなほどだ。でも、辛いモノ好きなら、こっちのほうが好きになることだろう。
(※3/28記 これを送ってくれた友人に再度確認したところ、これはザーサイとは別物であるということが判明した。大頭菜という野菜の漬物で、ザーサイに使う野菜と似ているが、漬け方が違うようである)
というわけで、四川編がこれでお終いである。次回からは別の地方の美味をご紹介していく。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。