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中国美味紀行その20(アモイ編1)「東南アジアから伝わった味──沙茶麺」

前回で終わった四川編に引き続き、今回からはアモイの食べ物についてご紹介していく。アモイといってもあまり馴染みのない地名だが、実は日本にも深いかかわりのある場所なのである。

海外にいる華僑・華人たちの故郷

 アモイは中国南東部沿岸の福建省にある都市。下の地図を見ていただくと分かるが、海を挟んだ向こう側は台湾である。

 さらに地図を拡大してみたのが以下。アモイは陸側と丸っこい島からなっている。この島がアモイ島で、アモイの中心地である。この島の広さは、山手線内側の面積の約2倍ほどだ。

 さて、アモイは中国の都市にもかかわらず、なぜカタカナで表記されるのか。アモイは漢字では「廈門」と書き、普通話(いわゆる北京語)読みでは「シァーメン」となる。ところが、日本を含めた外国では「アモイ(Amoy)」と呼ばれることが多いのだ。これは、この「廈門」は地元の言葉である閩南語では「アームン」(実際にはエームィンが近いと思う)と読み、これを聞いた外国人が聞き間違え、次第に「アモイ」になったものとされている。このへんについては、以降にまた触れようと思う。

アモイ島の南西に浮かぶ小島・コロンス島から見たアモイの高層ビル街。手前に見える赤い屋根はコロンス島にある家々 さて、アモイのある福建省は、陸側は険しい山地になっており、中国の他の地方から隔絶された地域になっている。そのため、歴史的にも福建の人々の目は中国ではなく、常に海の向こう、つまり外国に向かっており、お金を稼ぐために外国に出ていく人も多かった。その行き先は東南アジアが多く、なかには日本に向かう人もいた。海外にいる華僑・華人の半数近くは福建人だとも言われている。日本に数代にわたって長く住む華僑・華人たちのなかにも、福建系の人たちはかなり多い(華僑と華人の違いについても、いつか触れたいと思う)。

 1990年代には、中国人を外国に集団密航させる「蛇頭(スネークヘッド)」と呼ばれる犯罪組織が暗躍していたが、その拠点は福建省にあり、その密航者もほとんどが福建人だった。

海外に出ていった福建人が持ち帰ったもの

 さて、そんなアモイの基礎情報はここまでにしておいて、本題であるアモイの食べ物をご紹介しよう。アモイの街中を歩いていると、食堂の看板でよくみかける文字がある。それが「沙茶麺」。アモイを代表する麺といっていいだろう。

「沙茶麺」店や具材によって値段は変わるが、だいたい1杯10元(180円)前後 太めの麺にピーナッツをベースにしたスープ。具には、油揚げのようなものの他に、豚足や海鮮などを入れたりする。この「沙茶麺」は、実は東南アジアのとある料理をヒントにして生まれたものである。それは何か。

「沙茶麺」は普通話で読むと「シャーチャーミエン」だが、地元の言葉では「サーテーミン」。ミンは麺だから「サーテー麺」になる。そして材料にピーナッツを使っている。これでお分かりになるだろうか。そう、インドネシア名物の焼き鳥「サテー」である。インドネシアに渡った福建人が、故郷のアモイに戻ってきて、現地で食べたサテーをヒントにして作ったものと言われている。そして、サテーに「沙茶」の文字をあてて「沙茶麺」にしたのだ。

アモイで一番有名な沙茶麺の店「烏糖沙茶麺」。朝から営業を始めてお昼すぎには店を閉めてしまうから、いつも店は客でいっぱい お味のほうは、ピーナッツをベースにしているとはいっても、ピーナッツバターやピーナッツクリームの味を想像してはいけない。しっかりとした塩味にピーナッツの濃厚な味わいがぴったりとマッチしている。そして太めの麺がその濃い味と絡み合い、口に入れた瞬間から喉を通り過ぎるまで、舌を楽しませてくれる。

 福建料理は日本ではあまり馴染みがないが、実は中国でもそれほど知られていない。もしかしたらそれは、福建人は中国各地に散らばるのではなく、どうせ出ていくなら海外に出ていくことを好んだからかもしれない。次回以降も、アモイの特徴ある料理をご紹介していく。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。