SecurityInsight | セキュリティインサイト

中国美味紀行その22(アモイ編3)「坊さんも匂いを嗅げば禅を捨てて塀を乗り越えやって来る──佛跳墻」

 アモイのある福建の料理はあまり日本では馴染みがないものばかりなので、ここらへんで、日本でもよく知られている、福建料理のスーパースターをご紹介しよう。

高級素材をふんだんに使ったスープ

 それが「佛跳墻」(フォーティアオチアン)である。グルメ漫画『美味しんぼ』でも「仏跳墻(ファッテューチョン)」として紹介された、究極のスープ。『美味しんぼ』では、大きな壺にさまざまな高級素材を入れ、壺ごと蒸しあげて作っているが、アモイのレストランでは一人前用の小さな壺で作られて出てきた。それがこちら。

「佛跳墻」191元。今のレートで3500円くらい。ただし食べたのは5年近く前なので、今ではそれ以上するかもしれない また素材も、『美味しんぼ』では、干したアワビに貝柱にナマコに魚の浮袋、シイタケ、山椒魚、鹿の尾、朝鮮人参、クコ、ハクビシン、それに烏骨鶏と、いったい予算いくらだよと言いたくなるほどの高級素材をふんだんに使っているが、アモイのレストランで食べたものに入っていた高級素材は、アワビの干物と朝鮮人参くらいか。いや、朝鮮人参さえ、入っていたか記憶にない。

 一杯で191元と、なんで昼メシ15回分に匹敵する値段の高級スープを食べたかというと、仕事上、このスープの写真を撮る必要があったからである。現地の人に紹介された、そこそこ高級そうなレストラに飛び込みで入り、このスープだけをオーダーした。

佛をも悩殺する「ぶっ飛びスープ」

 実は佛跳墻はアモイの料理ではなく、同じ福建省の省都・福州が発祥の料理。今から100年以上前の清朝の頃、福州の役人がさらに上の層の役人をもてなすために作ったのが始まりだという。

 佛跳墻という名前の由来には諸説あるようだが、やはり一番面白いのは、佛跳墻を食べている時、近くを通りかかったお坊さんが、本来なら魚介や肉類などの生臭物を食べることが禁止されているにもかかわらず、その匂いを嗅いだら我慢できなくなり、禅の道を捨て、塀を乗り越えてやって来たという詩「佛聞棄禅跳墻来」から付けられたというものだろう。

 佛跳墻の読み方を「フォーティアオチアン」とご紹介したが、これは普通話での読み方。『美味しんぼ』では「ファッテューチョン」としており、こちらは広東語読み。実際、広東にも佛跳墻の作り方が伝わっており、高級レストランなどで食することができる。日本語で佛跳墻は「ぶっちょうしょう」と読むが、分かりにくいので、佛と「ぶつ」、跳と「飛ぶ」をひっかけて、「ぶっ飛びスープ」と呼ばれているようだ。

 お味のほうは、澄んだスープのなかに素材の滋味が溶け込み、その滋味が口の中、胃の中に染み渡っていく感じ。もちろん入れる素材によって味は(そして値段も)変わってくるのだろうが、漢方臭さもなく、昼メシ15回分の価値はあったと。ちなみに、仕事で使った佛跳墻の写真には、上にアップしたものよりも写真写りがいいものを使ったのは言うまでもない。
オマケカット。海に面しているアモイは魚介類が豊富。街中の青空市場では、日本なら水族館にいるような魚も普通に売られている

もう一つオマケカット。アモイにある名刹・南普陀寺。建立は唐代末期(10世紀始め)。観光客でいつも賑わっている

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。