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中国美味紀行その23(アモイ編4)「ゲテモノか、はたまた海鮮の珍味か──土筍凍」

海産物ならたいていのものは食べてしまう日本人でも、その素材を知ったらさすがに出す手がちょっと止まる食べ物がある。でもそれは、アモイでは地元の人たちにとっては普通の軽食だった。

ゼリーのような食感

 アモイの街を歩いていると、ときおり「土筍凍」と書かれた屋台を見かけることがある。通りすがりの人が立ち止まり、あれこれ指差しては買っていく。漢字からすると「土のタケノコを凍らせたもの」。いったいなんだか分からない。

 というわけで、地元で有名な「土筍凍」のお店に行って食べてみたのがコレだ。

見た目はなかなか美味そうな「土筍凍」 黄色や赤のソースがかかっていて実物がよく分からないが、見たところ普通の食べ物のようだ。付け合せには酢漬けの大根と香菜(パクチー)が添えられている。

 食してみると、ゼリーのような食感で、ときおり軽い歯応えを感じる。上にかかっているソースは黄色がマスタードで、赤が甘辛いチリソース。ソースがなければかなり薄味だが、味は悪くない。

 で、ソースをかける前のものがこちら。

大きさは大・中・小の3種類(写真は中サイズ)。値段は大が1個10元(175円)、中が5元(87円)、小が1元(18円) 白濁したゼリーのようなものの中に、アニメ『ムーミン』に出てくるニョロニョロみたいなものが入っている。これが、軽い歯応えのもととなっていたようだ。

この食べ物の正体は?

 ネットで調べてみたら、材料として使っているのは海に生息する「土筍」という生物。別名は「沙虫」というのだという。「虫」という言葉に不安を覚えながら、青空市場に行って、現物を確かめに行ってみる。そこで見たのがこれ。

青空市場でも普通に売られている。いったい誰が買うのか 虫というより、ほとんどミミズ。あのニョロニョロの正体はこれだったのである。アモイの人たちはこんなものを好んで食べていたのだ。「最初にナマコを食べた人はすごい」などと言われるが、これもなかなかいい勝負である。

 さらに調べてみると、なんと「Wikipedia」にこの「土筍凍」の説明があった。それによると、これは「海の砂地に生息する星口動物・サメハダホシムシ目サメハダホシムシ科」の生物らしい。なんだかよく分からないが、細長くて体内が筒状になった生物のようだ。これを煮てから冷やすと、体内から出たゼラチンが固まって煮こごりのようになるのだという。つまり、あの白濁した部分はゼリーや寒天などではなかったのだ。

 これが食せれば、かなりのアモイ通。見た目は確かに悪いが、夏場などはビールのつまみにも合いそう。日本人ならわさび醤油でもイケそうだ。アモイに行ったらぜひまた食べたいものの一つである。

オマケカット(その1)アモイから西に80キロほど行った山の中にある福建土楼。数百年前に北部の内乱から逃れてきた客家人たちが建てたもので、各地にいくつも散らばって建てられている

オマケカット(その2)土楼の中は共同住宅のようになっている。ここで客家人の一族たちが固まって暮らしていた。福建土楼は世界遺産にもなっている

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。