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中国美味紀行その29(アモイ編10最終回)「シンプルな料理法だけに素材の新鮮さが命──白灼章魚」

 アモイ編の最終回となる今回は、海辺の街・アモイに相応しい一品をご紹介しようと思う。作り方はいたってシンプル。それだけに素材の新鮮さが味の決め手という、いかにも日本人好みの料理だ。

どこかで見たことのある料理のような

「白灼章魚」。まずは漢字を見ただけでどんな料理か想像してみたい。白い灼熱の章くんの魚……では、さっぱり意味が分からない。まず「章魚」はタコである。恥ずかしながら筆者は知らなかったのだが、日本語でも章魚は「タコ」の意味で使われている。となると、その前にある白灼は調理方法のようである。

 この白灼は、日本語でいうところの、茹でる時間が短い「湯がく」に近い。つまり白灼章魚は、湯がいたタコということになる。前述したように、作り方がシンプルなだけに、タコの新鮮さが味の善し悪しを決める。まるで日本料理のようである。

 しかし、やっぱりアモイの料理なのでアモイらしさが出ており、日本料理とはまったく異なる。それがこれだ。

「白灼章魚」。これで一皿30元前後(約500円)とちょっとお高いが、道端で売られているものだともっと安い イイダコを湯がいたものにマスタードとチリソース、醤油、そして香菜(パクチー)。この写真、どこかで見たことがあると思っていただけたら、嬉しい。そう、「アモイ編4」でご紹介した「土筍凍」の写真とそっくりなのである。ただ、土筍凍は見ただけでは何が素材なのか分からなかったが、白灼章魚のほうは見ればすぐにタコかイカと分かる。

 実はこの写真、土筍凍を食べたところと同じ店で撮ったもの。この店は土筍凍が一番の名物なのだが、白灼章魚のほうも美味しいと評判なのだ。

 お味のほうは、ほどよい歯ごたえのあるタコにマスタードとチリソース、そして醤油が絡み合い、さらに香菜の独特の風味が無理やり仲間に加わってきて、味わいが鼻に抜けていく。夏の午後から夕方にかけて、ビールを飲みながら食べるのが一番ではないだろうか。でも、やっぱり日本人なら“これって醤油とワサビで食べたほうが美味いんじゃね?”と思わずにはいられないだろう。

台湾から来た薬草デザート

 続いてはデザートを。アモイには台湾の食べ物が多く入っていることは前々回のコラムでご紹介したが(「台湾夜市の小吃がアモイでも──大腸包小腸」)、これも、台湾からやって来たものらしい。それがこれ。

「焼仙草」。トッピングによって値段が変わり、5〜20元(80〜330円)。ミルクティーに入れただけのものから、アイスクリームや小豆などをたっぷり入れた豪華版まである これは台湾から来た甘味で、仙草という薬草を煮だし、ゼリー状にしたもの。これ自体には甘さがなく、ガムシロや生クリーム、甘く似た豆類などを加えて食べる。もともとはアモイ辺りでも食べられていたようだが、台湾から来た焼仙草のチェーン店が人気に再び火をつけた形になったようだ。夏場など、人気店では観光客の若い女性が行列をなして買い求めている。

 お味のほうは、うーん、何がいいのか、よく分からない。まずいわけではない。ほんのりと薬草っぽい味のするゼリーにガムシロの甘さが加わり、なかなか美味しい。ただ、なんでそこまで人気が出るのかがよく分からない。きっと、日本人には理解のできない、この仙草のゼリーの味わいが、人気の秘密なのだろう。

 さて、これでアモイ編はお終い。次回からは別の街の食べ物をご紹介していく。どこの街になるかは、次回までのお楽しみとしておこう(決して、まだ決めていないというわけではない……)。
オマケカット夜景シリーズ。海岸沿いの遊歩道で夕涼みをする人たち。海の向こうに見えるのはコロンス島の夜景

オマケカット夜景シリーズその2。アモイ島中央部にある高級住宅エリアの住民用娯楽施設。経済的に発展しているアモイは金持ちが多い

オマケカット夜景シリーズその3。アモイ島の小さな湖のほとりにあるカフェ街。夜は小洒落たバーに。このあたりは、アモイに駐在する外国人が多く住む

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。