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中国美味紀行その32(上海編3)「中華風ミートパイに地元民も行列──鮮肉月餅」

 上海編1回目の「小籠包」、2回目の「生煎」に続き、今回も肉餡を皮で包んだ食べ物をご紹介しよう。これも上海一帯ならではの食べ物で、特におやつとして上海人たちに大人気の小吃だ。

同じ月餅でも、まったくの別モノ

“月餅”というと、中国では中秋節(旧暦8月15日)の頃に食べるのが一般的で、日本のお中元のように、8月下旬から9月中旬にかけて、お世話になった人への贈り物として用いられている。この月餅、日本で売られているものよりも二回り以上大きく、しかもヘビーな甘さ。筆者が中国に住んでいたころ、「月餅」という言葉を聞いただけで、胸焼けをおこしそうなほどだった。とても丸ごと1個など食べられないし、1年に1回、8分の1個くらい食べればもう十分。まったく食べられなくてもなんの文句もない。

 しかし、上海のこの「鮮肉月餅」だけは別である。これなら3日に1個食べても飽きないだろう。それがこれである。

「鮮肉月餅」(1個4元前後=65円) 生煎に比べると一回りは小さく、皮はパイ生地のようにサクサクしている。中はどうなっているかというと……。

皮の生地がサクサクなので、食べるとポロポロと落ちてくる 薄い皮の中に肉餡がたっぷり。小籠包や生煎のように中にスープは入っていないが、ほどよいジューシーさで、肉まんの肉餡よりも硬めに仕上がっている。いわば中華風ミートパイだ。

 一口齧ると、最初はサクッとした歯応えがあり、そこから前歯が柔らかい肉へと食いこんでいく。ほどよい塩加減とサクサクの皮が口の中で交じり合い、プチ桃源郷を描く。そして、飲み込むのももどかしいまま、すぐさままた齧りつくことになる。

出来立てをその場でほおばるのが一番

 有名なお店では、上海人たちは鮮肉月餅を買い求めるために列をなす。筆者がおやつ代わりに2個買うそばで、上海人たちは10個単位の箱入りを一人でいくつも買っていく。おそらく家族や友人たちと一緒に食べるのだろう。

一人の客が何十個と買っていくので、延々並ぶことになる この店では、建物の脇に回ると、鮮肉月餅を作っているところを見ることができる。

店員が箸を使って器用にひっくり返していく。月餅の上には、赤く「月」と書かれている 大きく平たい鉄鍋に、鮮肉月餅を円形状に並べてていく。木の蓋をしてしばらく蒸し焼きにしたら、一個一個ひっくり返して、再び蓋をする。上下にきれいな焦げ目がついたら出来上がり。できた鮮肉月餅は店頭に運ばれ、できたそばから売れていく。だから、その場で出来立てが食べられる。

 小籠包は日本でもすでに有名。生煎も今では横浜中華街などで売られており、買い求める人で行列ができている(中華街で食べてみたが、それほど美味くなかった。皮がダメ。北池袋にある店のものは本場に近い)。この鮮肉月餅も、日本で売り出したらけっこう人気が出ると思うのだが、小籠包や生煎のように中にスープが入っていないからインパクトには欠けるかも。
おまけカット。上海外国語大学のグランドで行なわれていた、上海にある大学の野球部による対抗戦。技術レベルは日本の中学生ていどだが、中国では超マイナーな野球をやる大学生たちにエールを送りたい

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。