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中国美味紀行その33(上海編4)「小籠包との違いがよく分からないけど──湯包」

 小籠包、生煎、鮮肉月餅と、3回連続して小麦粉の皮で肉餡を包んだものをご紹介したが、その締めくくりとして今回ご紹介するのが、湯包(タンバオ)である。見た目は小籠包とほとんど変わらないが、高級レストランのメニューにもある小籠包とは違い、湯包は庶民的な食堂でしか(おそらく)食べられない。その違いはどこにあるのか。

熱々を食べるのが一番だが、慌てて食べてはいけない

 小籠包は上海の名物だが、実は湯包のほうは、上海のお隣にある江蘇省の省都・南京の名物である。お隣といっても上海と南京は直線距離にして約270km離れており、日本の東京と名古屋の直線距離とほぼ同じ。日本の新幹線など外国の高速鉄道の技術を使って作られた高鉄に乗って1時間40分のところにある。とはいえ、中国的感覚からいえば南京は上海から比較的近いところにあるため、南京名物の湯包は上海でも至るところで食べることができる。

「湯包」1蒸籠8元(約120円)ていど。皮を破かないように、箸でそっと持ち上げる 蒸籠(せいろ)で蒸し上げられたばかりの湯包がテーブルの上に置かれると、蒸籠の中の湯包すべてから湯気が湧き上がってくる。まるで「早く食べて」と急かしているかのようだ。だからといって、慌てて湯包を箸でつまんで口に入れてはいけない。皮の中から熱々のスープが飛び出してきて、口の中に大火傷を負うこと間違いなし。

 まずは小皿(日本の刺し猪口とほぼ同じ大きさで、やや深め)に酢醤油を入れ、そこに湯包を一つ、入れておく。湯包は密閉されているから、酢醤油が中に染みこんでいくことはないので、しばらく置いておいても大丈夫だ。そうやって酢醤油で少しだけ冷ましてから、口の中に入れると、それでもまだ熱々のスープが口の中に踊り出てきて、口をハフハフさせながら食べることになる。それがまたタマらない。

 箸でつまむ際は、箸で皮を破いてしまわないよう、上の写真のように、皮が寄り集まって厚くなっている上の部分を箸で軽くはさみ、つまみ上げるようにするのがコツ。

 “湯”という字は、中国語では一般的に「スープ」を意味する。なので「湯包」はスープを包んだもの。文字どおり、皮の中はスープでいっぱいだ。肉餡ももちろん入っているが、やはりメインはスープ。中に入っている肉餡には豚肉の皮で作ったゼラチンが混ざっていて、蒸籠で蒸すとこのゼラチンが溶けてスープになるのだ。

 さて、見た目も味もほとんど小籠包と同じ湯包だが、いったいどこが違うのか。以前、南京人の知り合いに聞いてみたが、しばらく考えてから「うーん……湯包は皮が薄いかな?」。ネットで調べてみたところ、やはり同じ疑問を持つ人は中国でもいるらしく、新聞の記事でも取り上げられていた。

 南京で記者が湯包の店などに取材していたのだが、これがまた人によって意見が違う。
・小籠包は肉餡が多くスープが少ない。湯包はその逆。
・湯包のほうが小籠包よりやや大きい。
・小籠包のひだは24で、湯包は20。
・ひだの中心にあるヘソの部分を、小籠包は上に向け、湯包は下に向ける。
 かと思えば、小籠包のほうがスープが多いなどと言う人もいたりするから、結局、南京人の間でさえ、湯包の定義は定まっていないらしい。ま、美味ければ定義などどうでもいいのかもしれない。
オマケカット。上海の町中で見かけた建物。これはハリボテか?

と思って横から見てみると、こんな感じ。一応、ちゃんと住めるらしい。でも、端っこのほうはかなり狭そう

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。