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中国美味紀行その39(上海編10)「上海人たちの意外な大好物──ザリガニ」

 上海料理といえば、小籠包や上海蟹など、日本でも有名な料理があるが、その他の代表的な料理は?と聞かれると、答えに窮してしまう。もちろん他にもいろいろあるのだが、日本ではほとんど知られていないものばかり。最近になって、以前にご紹介した生煎(日本では焼き小籠包とも呼ばれる)が横浜中華街などでは大人気のようだが、それくらいしかない。というわけで今回は、上海人たちの意外な好物をご紹介しよう。それがザリガニだ。

一本の細い通りに並ぶザリガニ専門店

 ザリガニ。年齢があるていど上の人、あるいは田舎育ちの人なら、子どもの頃に沼や川などでザリガニ釣りをして遊んだことがあるのではないだろうか。タコ糸に煮干しやスルメをくくりつけて、糸を垂らせば簡単に釣れたものだ。しかし、それを食べたことがある人は、まずいないだろう。

 しかし、世界的に見れば、ザリガニを料理の素材として使っている地域もある。たとえばアメリカ南部のルイジアナ州(ニューオリンズがある州)。ここでは、郷土料理の一つとして、茹でたザリガニが有名である。フランス料理では、ザリガニがエクルビスと名前で呼ばれ、高級料理の食材になっている。

 そして中国である。筆者が中国南部の都市・深圳に住んでいたとき、ザリガニ料理の店をよく見かけたが、どこも四川料理の店で、唐辛子いっぱいの辛い味付けになっていた。そのため、ザリガニは四川料理……だとてっきり思い込んでいたが、上海に住んで初めて、ザリガニ料理が上海でも非常にポピュラーな食べ物であることを知った。

 上海中心部の一角に、ザリガニ料理の店がズラリと並ぶ狭くて短い通りがある。その通りの左右に並ぶ店は、どれもがザリガニ料理の店。夜になると煌々と明かりがつき、地元の人たちがザリガニを食べに集まってくる。

昔ながらの長屋街の間を通る道に、ザリガニ料理の店が並ぶ どの店の前にも、生きたザリガニが入った大きなタライが無造作に地面に置かれ、テーブルの上には茹で上げたザリガニがきれいに並べられている。客たちはそれを眺めながら通りを歩き、店に入っていく。

中国語でザリガニは「小龍蝦」(シァオロンシァー)。生きたままだと赤黒い色をしているが茹でると真っ赤に。体の大きさの割に、食べるところは少ない お味のほうは、まあ普通に美味い。エビと同じように尻尾の部分だけを食べるが、エビよりも淡白な味わいのような気がする。ピリッと辛い唐辛子味だったり、カレーっぽい味だったりと、どれも比較的濃い味付けなので、ザリガニの肉そのものの味を味わうという感じではない。

 近年、薬品まみれだったり、不衛生な環境で取り扱われていたりするザリガニが市場に出回っていることが問題となり、以前に比べるとザリガニ料理を避ける人は増えたが、今でもザリガニは庶民的な味として上海人たちの舌を楽しませている。

オマケカット。道路上の架線から供給される電気で走るトロリーバス。中国では、北京や上海、広州などの大都市で今も現役で走っている

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。