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中国美味紀行その47(深圳編1)「広東に来てこれを食わずば……──焼臘」

 四川編、アモイ編、上海編と続いてきたこのコラム、次なる美味の地は深圳。中国南部の広東省の南部沿岸にあり、香港の北側と接している都市である。深圳は“移民都市”としても知られ、中国各地から仕事を求めてやって来た人たちが人口の大部分を占めている。そのためこの地には全国各地の料理が集まっており、深圳の食文化は彩り豊かなものになっている。

わずか30数年で大発展を遂げた都市

 深圳は、中国の首都・北京、経済の中心地・上海、貿易で栄える広東省の省都・広州と並ぶ、中国四大都市の一つとされているのだが、都市としての歴史はわずか37年ほどしかない。1979年から鄧小平によって始められた改革開放政策の一つとして、1980年に経済特区に指定されたのが、都市としての歴史の始まりである。

 当時はまだイギリスの植民地で、貿易と金融で発展していた香港のすぐ北隣にあったため、深圳は香港と中国大陸を結ぶ玄関口として大発展を遂げていった。中国各地から仕事を求めて大勢の人が押し寄せ、経済特区になる前は人口3万人ほどの漁村だったところが、37年後の今では推定で1400万人にまで膨れ上がっている。

深圳中心部の町並み。40年近く前まではひなびた漁村だったことが信じられない

 広東省以外から来た地方出身者が多いため、深圳で主に話されているのは広東省の方言である広東語ではなく、中国の共通語である「普通話」(日本では一般的に北京語と呼ばれている)となっている。また市内には、いろいろな地方のお国料理のレストランがあり、それぞれが本場に近い味を提供している。

さまざまな肉をローストする「焼臘」

 と、深圳の基本情報はここまでにしておいて、初回の今回にご紹介するのは、“これぞ広東料理!”の一つといえる「焼臘」である。日本語での読み方すらよく分からないが、普通話読みだと「シャオラー」、広東語読みだと「シゥラプ」となる(「焼味」と呼ばれることも多い)。深圳でよく見かけるのがこんな感じの店(深圳だけではなく、香港や他の広東省の町でもよく見かける)。これが「焼臘」である。

こんな情景は中華街のイメージになっているが、そもそもは広東料理店の目印でもある

 「焼臘」はローストした肉料理のことだが、いろいろな種類があり、主には以下のようなものがある。
・蜜汁叉焼(甘いタレをつけてローストした豚肉。日本の叉焼はほとんどが煮豚)
・焼鶏、焼鴨、焼鵝(丸ごとタレをつけてローストした鶏、鴨、ガチョウ)
・焼肉(皮の部分をこんがり焼いた豚肉)
・焼乳猪(丸ごとローストした子豚)
・白切鶏(鶏を丸ごと茹でて生姜汁で食べる。ローストしていないが焼臘の一つ)

 丸ごとローストしたものを、オーダーが入ると大きな包丁を叩きつけるように骨ごと豪快にぶった切って出してくれる。レストランなどに行くと、それぞれ少しずつを一つの皿に乗せたものを食べることができる。それがこれ。

香港系のチェーン店で食べた焼臘“盛り合わせ”。左から焼鴨、焼肉、白切鶏(?)、それより向こうはちょっと不明

 庶民的な食堂では、ご飯と一緒に出てくる定食がポピュラー。乗せる肉は選ぶことができ、1種類でも2種類でも3種類でもOK(もちろん値段は上がっていくが)。特に3種類の肉を乗せたものは「三宝飯」などと呼ばれている。そのなかでも、深圳の食堂でよく食べていたのがこれである。

焼臘双拼(2種類の肉を乗せたもの 21元=350円)

 手前にあるのが焼鴨で、向こう側が焼肉。筆者が好きな組み合わせである(これに蜜汁叉焼も加えたのがベスト)。肉の下には、青菜を茹でたものが申し訳ていどに添えられている。これに塩味のついた茹で卵がつくこともある。

 焼鴨は右下の小皿に入っているソースにつけていただく。タマリンドベースの甘酸っぱい味がして、脂っこい焼鴨によく合う。鴨の肉は日本ではあまり食べられないが、中国ではごく普通の食材。鶏肉よりも噛みごたえがあり、しかも味にコクがある。ちなみに、焼鶏、焼鴨、焼鵝、白切鶏などは包丁でぶった切られた細かい骨がそのまま入っているので、日本人は慣れないとちょっと食べにくいかもしれない。

 焼肉のほうは薄い塩味ベースで、焼かれた皮の部分がカリカリ、下の肉の部分はジューシー。これがもうタマラナイ。ここには入っていないが蜜汁叉焼も、外側のタレの甘辛い味と肉汁あふれる身の部分が、口の中でジャズのような複雑なコード進行を奏でる。これを食わずば広東に来た意味がないと言えるほどである。

 これからしばらくは、さまざまな地域の料理が味わえる深圳で食べてきた美食の数々をご紹介していく。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。