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中国美味紀行その48(深圳編2)「週末の午前中に家族揃って──飲茶(その1 準備編)」

 前回に引き続いて“広東に来てこれは食わずば……”の第2弾である。広東には“これは食わずば……”がたくさんあるのである。今回から数回に分けてご紹介していくのは「飲茶」である。おそらく日本の中華料理店で飲茶を食べたことがある人も多いのではないかと思うが、飲茶といえば広東。飲茶は日本でも「ヤムチャ」と読まれるが、これは広東語の読み方なのである(普通話ではインチャー)。

「一壺靚茶、両籠点心」

 ところで、飲茶というのは文字どおり「お茶を飲む」という意味なので、本来なら「飲茶を食べる」というのは変な日本語である。飲茶の時に出てくる食べ物のことは「点心」といい、お茶を飲みながら点心を食べることが「飲茶」なのである。とはいえ、自分でそう言っておいてなんだが、ここではそんな細かいことを言ってもしょうがないし、書き分けるのも面倒なので、「飲茶を食べる」でもOKなことにしておく。

 さて、広東で飲茶は、一般的には朝から午前中にかけて食べることがほとんどである。もちろん昼から夜に食べることができるところもあるが、平日などは午前中にしか出さないところも多い。特に朝から楽しむ飲茶のことを「早茶」(広東語でゾウチャ)と呼ぶこともある。ちなみに早茶の「早」は早いという意味もあるが、朝という意味もある。

「早」といえば、話がかなりそれるが、広東語で「おはよう」は「早晨」で、読み方は「ゾウサン」。広東や香港では、朝からみんなで「象さん!」と挨拶し合っているのである。ただし、日本語の「象さん」とはイントネーションがかなり異なるが……。

 飲茶は朝に食べることが多いと書いたが、忙しい現代人、朝からそんなにのんびりとお茶を飲みながら食事などしていられない。そのため、広東人たちは週末の午前中に家族や親戚などと一緒に広東料理店などに行き、飲茶を食べることが多い。飲茶の点心にはいろいろな種類があるので、大勢で行ったほうがたくさんの種類が食べられるからである。また、週末くらいは一族そろって食事をしようという意味合いもある。

広い店内も週末は午前中から客でいっぱい。人気店では並んで待つことも

 ちなみに、平日の朝から飲茶などしているのは、もう隠居したお年寄りが多い。広東省の省都である広州あたりに行くと、広東料理店のテーブルで新聞を読みながら一人で飲茶をしているお爺さんを見かけることがある。「一壺靚茶、両籠点心」などという言葉もあり、これは一つの急須のお茶と点心2蒸籠を頼んでのんびりと過ごすという、いわば広東人にとっての粋なのである。

広東省独特の、レストランで食事を始める前の儀式

 と、長い前置きを終えたところで、飲茶の点心の紹介に……と思ったが、本題に入る前に、飲茶についてもう一つ前置きがあった。

 広東のレストランや食堂では、食事を始める前に、テーブルに並んでいる食器類をお茶で洗う習慣がある。これは、茶葉は汚れがついているのに加え、最初のお茶は味があまりよくないので、最初のお湯でそれを洗い流してしまい、ついでに食器も洗ってしまおうというわけである。

 そしてもう一つ、客がレストランの食器の洗い方を信用していないという現実的な理由もある。レストラン側もそれが当然のことのように、平気な顔してお茶を捨てるためのボウルをテーブルに置いて行く。いわばレストランで食事をする前の儀式のようなものである。ちなみにこの儀式、中国全土の習慣かと思っていたら、広東省以外の地域ではまったくやらないようである。

 というわけで、今回はお茶を使った食器類の洗い方をご紹介しよう。

これが飲茶の食器セット(普通の食事も同じ)。まずは湯呑みにお茶を入れる

箸の先をお椀に入れて、上からお茶を注いで箸を洗う

お椀に溜まったお茶で、湯呑みとレンゲを洗う

最後にお椀をゆすいでからボウルにお茶を捨てる

料理の写真がないのは寂しいので1点だけ。これは青菜をゆがいでオイスターソースのようなタレをかけたもの。点心には野菜っけが少ないので必ずといっていいほど頼む一品。シンプルだが美味し

 さあ、これで準備完了。次回からは点心の数々をご紹介していく。
おまけカット。高層ビルが建ち並ぶ深圳の副都心の夜景

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。