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中国美味紀行その51(深圳編5)「広東式お茶の作法──飲茶(その4)」

 飲茶編の最初に、お茶でお椀などを洗う作法についてご説明したが、飲茶編最終回の今回は、飲茶をいただいている際にしばしば行なう作法についてご紹介していく。これは広東ならではのもので、飲茶に限らず、レストランで食事をすると必ずやることになる。

言葉じゃなくて態度で示す?

 飲茶では、当然のことながらお茶は何を飲むかも重要である。テーブルに着くと、まずお茶は何にするか聞かれる。飲茶の際に一般的に飲まれているのは「龍井茶(ロンジン茶)」「烏龍茶(ウーロン茶)」「鉄観音(てっかんのん)」「茉莉花茶(ジャスミン茶)」などが挙げられるが、広東人たちがもっとも好んで飲むのは、茶葉を酵素やカビで発酵させた「普洱茶(プーアール茶)」である。

 プーアール茶は、最近では日本でも“ダイエット効果がある”とかで知られるようになってきているようだが、それでもまだ日本人にとっては馴染みが薄いお茶である。お茶の色も味も濃く、香りにはややクセがあり、カビ臭いような生乾きの雑巾のような。最初は「なんじゃこりゃ」と感じるが、慣れてくれば「飲茶はやっぱりプーアール茶に限る」と思うようになってくる(はず)。

 飲むお茶を選ぶと、大きな急須に茶葉とお湯が入れられて出てくる。最初のお茶は、以前にご説明した方法で食器を洗うのに使い、それが終わるとすぐさまお湯が足され、そのお茶を湯呑みに注いで飲んでいくことになる。

 ここでもまた出てくるのが、広東式のお茶の作法である。広東人は(というか中国人みんながそうだが)、食べている最中も賑やかにおしゃべりをする。湯呑みの中のお茶が少なくなると、他の誰かが急須で注ぎ足してくれるのだが、その際におしゃべりを一旦止めて「謝謝」などと言ったりはしない。人差し指と中指を揃えて指先でテーブルを軽くトントントントンと叩くだけである。これが「ありがとう」の意味なのである。

先日、新宿の中華料理レストランで食べる機会があり、今回の記事のために撮ったもの。写真を撮っていたら、中国人の店員さんがすぐさまテーブルに来て「お茶を足しますか?」と言ってきた(笑) そしてもう一つ、急須の中のお茶がなくなったらお湯を注ぎ足してもらうのだが、その際、いちいち店員を呼んだりしない。急須のフタを少しずらしておくだけである。そうすると、それに気づいた店員がその急須を下げ、お湯を足してまたテーブルに持ってきてくれるようになっている。とにかく食事の際にはおしゃべり以外、よけいなことには言葉を使わないというわけである。

 

 

1回に十数種類の点心を食べるのもごく普通

 またもや前置きが長くなってしまったので、駆け足で点心をご紹介していこう。まずは団子系のこれ。

 と写真を出したはいいが、料理名が分からない……。たぶん「蓮藕肉丸」かなんかだと思う。「蓮藕」はレンコンで、「肉丸」は肉団子のこと。肉団子の中に刻まれたレンコンが入っていて、ときおりシャクシャクっとした食感があって、なかなかよろしい。

 お次は、シューマイ系のこれ。

 これは「鮮蝦焼売」、つまりエビシュウマイで、点心の定番中の定番。なぜかよくシュウマイ同士がくっついて出てきて、蒸籠から取り出しにくいことがあるのが難点といえば難点か。

 肉系の点心には、こういったものもある。

 見てのとおりのハチノスで、料理名はたぶん「なんたら牛肚」。しっかり煮込んであるので柔らかく、薄味醤油系の味付けになっている。これはまたもう一皿頼みたくなる味。

 次は主食系のこちら。

 これは「腸粉」といって、広東では朝食の定番。名前からはどんな料理か想像しにくいが、米粉を水で溶いてクレープ状に蒸したもので、中にわずかばかりの野菜と肉が入り、オイスターソースまたは醤油系のタレがかけられている。ツルツルとした食感で、お腹にも優しく感じられる。

 そして最後が、肉まん系のこれ。

 肉まん系といったが、中に入っているのは肉ではなく、カスタードクリームのような甘い餡。いってみればデザートのようなものである。もちろん熱々。中国料理にデザートという概念はあまりないようだが、最後は甘いもので〆るのがやはり一番。これを食べる頃には、もうお腹がパンパンになっているはずである。

 飲茶の点心をご紹介するのは今回まで。4回にわたり飲茶の点心16種類をご紹介してきたが、大勢で行けば、これらを1回で全種類食べるのはごく普通のこと。他にもここではご紹介していない点心もまだまだいっぱいある。やっぱりメシは広東が最強である。


おまけカット。「タイム・イズ・マネー、効率は命」という、改革開放時の深圳のスローガン

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。