中国美味紀行その52(深圳編6)「簡単なもので済ませる人がほとんど──朝ご飯」
- 2017/05/20 00:00
- 佐久間賢三
前回の飲茶編で、最後に「やっぱりメシは広東が最強である」と書いたが、その一方で、毎日の朝食に関していうと、広東はかなり貧弱である(飲茶も朝食の一つだが、毎日食べるものではない)。
特に深圳は仕事のために地方から出てきた人が多く、朝からのんびりと朝ご飯を食べてなどいられない。家で朝ご飯を食べてから仕事に出かけるなどということすらせず、通勤途中で朝食を買い、会社に着いてから食べたり、はたまた移動のバスの中で食べたりしている(まあこれは、深圳に限らず他の大都市も似たようなものだが)。
というわけで今回は、深圳人たちがどんな朝ご飯を食べているのか、そのほんの一部をご紹介していこう。
中国全土を席巻!? 福建の小吃
深圳の住宅街(そのすべてが団地やマンションが並ぶ地域)や商業街にある建物の1階にはお店が並び、飲食店や軽食を売る店では朝から店頭で朝食を売っている。その多くは包子(肉まん系)や油条(中華風揚げパン)、小籠包、茶葉蛋(味付けゆで卵)などで、要はまとめて作りおきして、時間をかけることなく売りさばいていけるものばかり。買う側のほうも、注文してから出来上がるのを待っていられないので、これでちょうどいいわけである。
ちなみに、深圳で朝ご飯として売られている小籠包は、小籠包などといえるシロモノではなく、小さな肉まんでしかない。小籠包の本場・上海の人が見たら怒り出すレベルである。あと、飲み物は豆乳が多い。この豆乳も、値段が1杯1〜2元(15〜30円)と安いのはいいが、どれだけ水で加えているんだか、やけに薄い。
広東らしい朝食といえば、前回の飲茶編でもご紹介した腸粉。飲茶に出てくるのは形も整っていて見た目も美味そうだが、毎日の朝ご飯として売られている腸粉はこんな感じだ。
水でふやかした米をミキサーにかけて液状にしたものを平らなステンレスバットに流し込んで蒸す。ある程度固まって湯葉状になったら、卵や青菜を加え、タレをかけてできあがり。これはフワフワでお腹に優しく、味も薄めなので朝ご飯にちょうどいい。ただ、それほど腹持ちしないのがちょっと難点。
そして次は、筆者がときどき週末の朝に家の近くの店で食べていたこちら。
なぜかこういったものは福建省の沙県のものが有名で、まるでチェーン店かのように深圳のあちこちに「沙県小吃」の店がある(たぶん、多かれ少なかれ中国全土にあると思う)。沙県というのは、福建省内陸部にある山の中の田舎町で、ここには古くからの食文化が残っているそうである。でも「沙県小吃」の店は、食べ物からはこれっぽっちも伝統を感じさせない、庶民向けの食堂。その他に麺類(汁なし、汁あり)も揃っている。
蒸餃は福建省の店らしくピーナツソースで食べるのが普通だが、酢醤油もあるのでお好みで。スープのほうは豚だか牛だかの骨を出汁にしたスープ。中に砕かれた骨がゴロゴロとそのまま入っていて、一つ一つ入れ物ごと蒸して作られている。飲みすぎた翌朝の胃袋に染み渡る。
そして最後が、チェーン店の食堂で売られているこの朝食。
この店は昔の社員食堂のごとく、目の前に並べられている料理を指差して皿に盛ってもらう形式の食堂で、7年ほど前からあちこちに雨後の筍のようにあちこちにできた。昼時は近くのサラリーマンでいっぱいになるが、朝は比較的空いている。で、お味のほうは、はっきりいって美味くない。
昼間のメニューは値段の割にまあそこそこの味なのに、なぜ朝食はダメなのか。やっぱり朝食にはそれほど力を入れていないのだろう。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。