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中国美味紀行その53(深圳編7)「広東料理の一つにされてしまうことも多いけど──潮州料理」

 深圳編その1で、深圳は移民都市なので中国各地の料理が集まっており、さまざまな地域の食が楽しめるとお伝えした。今回はそのなかの一つ、潮州料理をご紹介しよう。

海の幸が多くあっさりした日本人好みの味

 潮州料理の故郷・潮州は、広東省東端にあり、隣の福建省に接している地域である。言語や食、文化的には福建圏の地域なのだが、行政的には広東省に属している。かつては潮州市がこの地域の中心であったが、20世紀に入るとお隣の汕頭(スワトウ)のほうが発展し、潮州市は1950年代には汕頭市の一部となってしまった。

 1991年に再び市として“独立”を果たしたが、経済特区として発展した汕頭市に追いつくことができず、この地域では2番目の地位に甘んじている。今では潮州と汕頭を合わせて「潮汕」地区とも呼ばれるが、潮州のかつての栄光からか、この地域の料理は“潮州菜(潮州料理)”と呼ばれることが多い。

 潮州が広東省にあるため、潮州料理も広東料理の一つとされてしまうこともあるが、実際は異なるもので、たとえばフカヒレスープや燕の巣、干しアワビの料理といった広東料理を代表とする高級料理も、もともとは潮州料理だとされている。

 そんな潮州料理の特徴は、簡単に言ってしまうと海の幸を使ったものが多く、味付けもあっさりしているということ。つまりは日本人の好みに合った料理ともいえる。その他にも、鹵水(ルーシュイ)と呼ばれる独特のタレで煮込んだ肉料理も代表的な料理として挙げられる。

潮州風“おばんざい”

 と、いつもながら前置きが長くなってしまったが、そんなわけで広東省一帯には潮州料理のレストランが多くある。上に挙げたフカヒレスープや燕の巣、干しアワビといった料理があることから高級レストランが多いのだが、日本人が寿司や刺し身、天ぷらを毎日食べているわけではないのと同様、当然のことながら庶民的な潮州料理の店もある。

 深圳は移民が多い都市で、開拓初期にやって来た人たちは同郷の人たちとかたまって住むことが多かったからか、その当時からあるエリアの中には、ある地方の人たちが集まっているところもある。

潮州人が多く住む福星路の入口。それほど広いエリアではないのだが、夜になると煌々と店の灯りがつき、潮州料理を味わいに多くの人が集まってくる

 潮州人たちが多く住んでいるのが深圳の中央部、福田区にある福星路という通りのエリアで、ここには数多くの潮州料理レストランがある。しかも、労働者が集まっているエリアなので、どこも庶民的な店で、しかも味は本場のものに近い。

福星路にある潮州料理の有名店(写真は5年くらい前のもの)。夏は冷たいビールを飲みながら外で食べるのが気持ちいい(ちなみに深圳の夏は4月から11月までと長い)

 そういった庶民的な店に入ると、入口付近で大皿やバットに盛られた料理が出迎えてくれる。これは日本でいえばおばんざいのようなもので、自分の目で見て好きなものを選んでオーダーすることができる。料理は鹵水などで煮込んだものが多く、調理済みですぐに食べられるので、前菜にちょうどいい。

潮州料理のお惣菜。上中央に見える細長くて曲がった茶色い物体は、鹵水で煮たガチョウの足

 お次は潮州料理の代表的なスープのこちら。

「苦瓜釀肉湯」(クー・グアー・ニアン・ロウ・タン)。苦瓜の肉詰めスープ

 苦瓜は潮州料理ではよく使われる食材で、その中にひき肉が詰まっている。スープはあっさり味で、胃に優しい。苦瓜の肉詰めは「釀苦瓜」(ニアン・クー・グアー)とも呼ばれ、潮州の北隣の梅州に数多く住む客家人たちの代表的な料理ともなっている。

 そして魚料理はこちら。

料理名や魚の名前は覚えていないのだが、たぶん「清蒸鱸魚」。鱸魚はスズキのこと

 白身魚を香味野菜と一緒に蒸し、醤油ベースのタレをかけたもので、広東料理でもよく見かける料理である。淡白な味わいで、日本人の舌にも合う。

 ほかにもまだたくさん食べたのだが、食べるのに夢中になっていたからか、写真をほとんど撮っていない。深圳を訪れたらまた食べに行きたい店である。
おまけカット。深圳一の繁華街「東門」。日比谷公園よりやや広いエリアに小さな衣料品店が並び、週末になると1日約50万人もの人が訪れる

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。