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中国美味紀行その57(深圳編11)「日本でも人気に!? 食材豊富で手軽に食べられる簡易版火鍋──麻辣燙」

 今回は、小腹が空いた時にぴったりな食べ物をご紹介しよう。その名も麻辣燙(マーラータン)。麻辣という名前がついているように、もともとは四川省で生まれた食べ物だが、それが中国各地に広まり、今ではどこででも食べられる庶民的な食べ物となっている。

自分の好きな具材を選んで食べられる

 深圳は住宅のほとんどが団地、または新しいところでは高層マンションで、一軒家というものが非常に少ない。これは都市としての歴史がないところにもってきて、いきなり大量に労働移民を迎えたことから、その住宅需要に応えるために、急遽、安普請の団地を各地に建てたことが理由となっている。

 その団地街の建物の1階部分は商店となっているところが多く、市場や食堂になっているところもある。夜になると、団地の住民たちが夜食を求めて下に降りてきて、下の食堂で麺をすすったり、食べ物を打包(ダーバオ=持ち帰り)して家に持ち帰って食べたりと、日本の団地とは違った様子になっている。

 そこによくあるのが麻辣燙の店。大きなテーブルの上にプラスチックのカゴが並び、その中に、串に刺さった野菜やソーセージ、キノコ類、うずらの卵、油揚げなどの具材が入っており、そこから自分の好きなものを選んで、空のカゴの中に入れていく。

テーブルに並んだ具材を自分で選んでいく(写真は四川省宜賓市のもの)

 それを店員さんに渡すと、煮え立ったお湯が入った大きな寸胴で湯がき、お椀に入れてスープを加えて出してくれる。頼めば麺類も選んで入れることができる。いわば簡易版火鍋のようなものである。

 値段計算は、スープ代の基本料金プラス、野菜の串1本いくら、肉系の串1本いくら、麺を加えたらいくらと足していく。いろいろな野菜が食べられるし、具をけっこういっぱい入れても10元(約165円)前後ていどにしかならないので、お財布にも優しい。お腹が空いていれば麺を入れれば腹持ちがいいし、麺を入れなければお腹に重くない。麻辣燙は夜食にピッタリなのである(もちろん昼間に食べることもできるが)。

 四川生まれの食べ物で、しかも“麻辣”という名前がついているにもかかわらず、味のほうは“現地化”しており、ほとんど辛くない。上海でも麻辣燙を食べたことがあるが、そちらのスープは八角の味が効いていて、上海らしいやや甘めの味となっていた。

 この麻辣燙の店が、東京都豊島区にあるJR池袋駅の北口の繁華街に最近、いくつかできている。この辺りはここのところ、新たな中国人たちが進出していきており、いわゆる「池袋チャイナタウン」の様相を呈している。すっかり観光地化して味の落ちた横浜の中華街のレストランと違い、このあたりの店は本場中国のままの味を出している店も多い。

写真写りはよくないが、味は薬膳系の味がちょっぴり感じられて、クセになりそう(写真は池袋の店のもの)。ただ5つの具を入れて1000円弱と、中国に比べるとかなり高い

 新たな中華料理として、麻辣燙が日本でも人気が出てくるかもしれない。
おまけカット。広東省の街角のどこにでもある涼茶(リャンチャー)スタンド。漢方薬的な薬効のあるお茶で、広東人たちはこれを飲んで体の調子を整えている。苦い味のものがほとんど

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。