中国美味紀行その63(武漢編2)「湖北省発祥の手軽なおやつ──公安鍋盔」
- 2017/11/04 00:00
- 佐久間賢三
武漢編の2回目は、街中をブラブラと歩いていた時に見つけた小吃について取り上げようと思う。中国には小麦粉の生地と肉を使った食べ物が各地にあるが、武漢のものは、まるでインド名物のあの食べ物のような作り方をしている。
意外に日本との接点が多い武漢
ところで、これまで取り上げてきた上海や深圳と異なり、湖北省の武漢市などと言われても、聞いたことのない人が多いかもしれない。だが実際には、意外と日本との接点が多い都市である。
武漢を流れる長江の西北側にある漢口(ハンコウ)は、1858年に清朝と諸外国の間で結ばれた天津条約により開港し、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、そして日本の5か国の租界が置かれていた。つまり、この頃からすでに日本人がここに住んでいたのだ。多い時で1400人近くが住み、日本人学校もあったという。
また現在では、日本の自動車メーカーが武漢市内に工場を構えており、それに関連した日系の部品メーカーも進出していることから、武漢に勤務する日本人駐在員も多い。そのため、日本人向けのアパートや日本料理店、カラオケ店なども増えている。また、総合スーパーのイオンモールも進出している。
ちょっと古いデータになるが、日本貿易振興機構(ジェトロ)の資料によると、武漢に進出している日系企業は264社(2014年12月現在)で、日本人在住者は582人(2015年1月現在)だという。日本人が数万人は住んでいるといわれる上海とは比ぶべくもないが、それでも、それなりの数の日本人が武漢には住んでいるのである。
まるでインド料理のナンのように
さて、食べ物について話を戻すと、筆者が漢口の租界エリアをブラブラと散歩してから市の中心部に戻ってくる途中に通りかかった店で、美味しそうなものを見かけたので食べてみることにした。それがこの「公安鍋盔」である。
公安鍋盔は、武漢の西隣にある荆州(日本語読み=けいしゅう、中国語読み=ジンヂョウ)が発祥の小吃で、肉入りや砂糖入り、漬物入りなどがある。そこで店のおばちゃんに肉入りをオーダーすると、おばちゃんは丸っこい生地を平らに伸ばして、手で釜の内側に貼り付けた。その釜の中を見ると、まるでインド料理店のナンのようである。
こうして焼きあがるのを待つこと数分。紙袋に入れられた熱々の出来上がりをほおばると、わずかに感じる肉の味と生地の味が口の中で絡み合いながら、喉の奥に通り抜けていく。量的にも、小腹を満たすおやつにちょうどいい。
やっぱり中国の小吃は美味い。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。