中国美味紀行その66(桂林編)「中国全土で食べられるけど、本場で食べる味はまったくの別物──桂林米粉」
- 2017/12/16 12:00
- 佐久間賢三
2017年最後の中国美味紀行は、風光明媚な観光地として知られる桂林の名物・桂林米粉(グィリン ミーフェン)をご紹介する。この桂林米粉、中国各地で食べることができる(と思われる)が、他の地方のものと本場・桂林のものでは、かなり異なっている。
オーダーの仕方も、味も食べ方も、そして値段も、何もかもが違う
筆者はかつて広東省の深圳に長く暮らしていたが、そこでよく食べていた食べ物の一つが桂林米粉である。街のあちこちに店があり、しかも深夜遅くまでやっているところが多いので、お腹が空いたらいつでも行けて便利だったのである。
そんなわけで、出張で初めて桂林に行った際、真っ先に食べたのが桂林米粉である。桂林近くの町出身の同僚から「深圳の桂林米粉とは全然違う」と聞いていたので、ぜひ本場の味を食べてみたいと思っていたからである。
桂林に着いた夜、現地の人に連れていってもらった店は地元客でいっぱい。数ある桂林米粉の店の中でも人気店のようだった。そこで食べた桂林米粉がこれである。
深圳(およびそれ以外の地域)のものとはまったく違っていた。写真で見ると分かるとおり、汁なしである。麺の下にタレが入っていて、よく混ぜてから食べる。ところが深圳の桂林米粉は基本的にスープ入りで(一応スープなしも頼める)、しかもそのスープは真っ黒。関西人が初めて東京でうどんを食べた時に「なんやこの真っ黒なスープは!」と驚く色、みたいな感じなのである。
オーダーする際、まずは麺の量を「1両」「2両」という単位で指定する。すると、ボウルにその分の麺を入れて、スライスした叉焼など2、3種類の肉を麺の上に乗せて出してくれる。1両の「両」は重さの単位で、1両=50グラム。日本的表現でいうと、1両が小盛りで、2両が普通、3両で大盛り、4両で特盛りといった具合になる。
深圳で食べる桂林米粉は1杯の麺の量が決まっているので、こんなオーダーの仕方はしない。具も叉焼ではなく、牛腩と呼ばれる肩バラ肉が一般的で、それ以外にも牛肉のスライスや肉団子、魚団子などから選ぶようになっている。そして席に着いて待っていると、真っ黒いスープに入った桂林米粉が出てきて、それをいただくことになる。
しかし桂林の場合は、窓口で麺の入ったボウルを受け取っても、それで終わりではない。ボウルを持って店の脇にある漬物の棚に行き、数種類ある漬物の中から好きなものを選んで好きなだけ入れて、それからテーブルに置いて、箸でよく混ぜてからいただくことになる。上に掲載した桂林米粉の写真は、漬物を入れてかき混ぜる前のものである。
お味のほうは、麺はツルツルシコシコで、タレはあっさり味。そこに叉焼の香ばしさや皮の部分のサクサク感、漬物の塩気や歯応えが加わり、口の中が心地よいお祭り状態となる。はっきり言って、深圳で食べていたのより何倍も美味い。
食べ方にも特徴があり、8、9割がた麺を食べ終えたら、再びボウルを持って立ち上がり、今度は店の片隅に置かれている寸胴のところに行き、中に入っている熱々のスープをボウルに注ぐのである。スープにはほとんど味がついていないので、好みでさらに漬物を追加してもよい。そして、最後にスープとともに残った麺を平らげてからご馳走さまとなる。
驚くのはその値段で、深圳ならどんなに安い具のものでも10元(約170円)以上はしたが、桂林では2両でたった3元(約50円)である。5年前の値段なので今はもう少し高くなっているかもしれないが、それにしても安い。桂林に滞在していた4日間、毎朝食べていた。1日2回食べた日もある。
値段はともかく、なぜ桂林以外の地域では、あんな関東風うどんのような汁入りになったのか、とても不思議である。
さて、これまで筆者が中国で食べてきた料理の数々をご紹介してきたが、ついにネタ切れ(=写真切れ)となった。そのため今回が最終回となる。とはいえ「中国美味紀行」はこれからも続き、次回からはなんと、日本で食べられる中国本場の味をご紹介する「日本編」をお届けする。日本にある普通の中華レストランではなかなか食べられない料理ばかりで、これまでご紹介してきた料理もいくつか登場する。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。