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中国美味紀行その69(日本編3)「店の中でバタンバタンと麺を伸ばしていく──蘭州拉麺」

 蘭州拉麺(ランヂョウ ラーミエン)は、中国北西部にある甘粛省の省都・蘭州市の名物麺料理である。とはいえ、現在では中国各地に店があり、手軽な食事として人気がある。その蘭州拉麺の店が池袋駅北口エリアにもあるので食べに行ってみた。

麺を拉(引っ張って)作るから拉麺

 蘭州にはムスリム(イスラム教徒)の少数民族である回族が数多くおり、蘭州拉麺は彼らが食べる清真料理(ムスリムの料理)の一つとされている。そのため豚肉関連の素材は一切使われず、肉類には牛肉か羊肉が使われている。スープは牛骨など煮込んだもので、見た目は日本の塩ラーメンに近い。

 麺の作り方は、小麦粉にカンスイを加えて練った大きなかたまりの両端を手で持ち、左右に引っ張って伸ばしてから半分に折り、それをまた引っ張って伸ばしては半分に折るという動作を繰り返して、徐々に麺を細くしながら本数を増やしていく。そもそも拉麺の「拉」は「引く、引っ張る」という意味なので、拉麺の麺は引っ張って作るものなのである。

 というわけで、池袋駅北口から通りをずっと奥のほうに入っていったところにある蘭州ラーメンの店で食べたのがこちら。

上に浮かんでいる緑の葉っぱは香菜(パクチー)で、白いのはネギ。申し訳ていどに牛肉が入っている

 麺は細麺で、スープはあっさり。煮玉子が入っているとは知らず、荷包蛋(ハーバオダン)をトッピングで追加した。荷包蛋は目玉焼きのことだが、たっぷりの油で揚げるようにして作るので、"目玉揚げ"といったほうが近い。中国では一般的な食べ方で、麺類などの付け合せに使われることが多い。

 店内では、厨房の端っこでオジサンが小麦粉のかたまりを調理台にバタンバタンと打ち付けるようにして麺を伸ばしているのが見える(というか、聞こえる)。これも蘭州拉麺の店の特徴で、一般的には注文を受けてから麺を伸ばし、それを茹でて出している。

 この店の蘭州拉麺は、特別美味いというわけではないが、しばらくぶりで食べたので、中国での生活を思い出させる懐かしい味だった。

 それから数日後、その店からそれほど遠くない場所で、別の蘭州拉麺の店を見つけた。店の様子からしてオープンしてからまだ間もないようだった。

 味がどう違うのか、入って食べてみた。

こちらの店では細麺と平麺から選ぶことができる

 結論から言うと、こちらのほうが中国でよく食べていた味に近いと感じた。ただ、食べてから10分ほどすると、口の中がなにやら少し痺れるような感じになってきた。

 中国の料理店では料理に化学調味料を大量にぶちこむことが普通に行なわれているので、この店もそうだったのかも……と思ったが、口の中が痺れるのは何も化学調味料だけが原因ではないとも言われている。しかも、これまで中国でさんざん料理を食べてきたが、口の中や舌が痺れたという経験はない。

 今回、どういう理由で痺れたのかは分からない。もう一回食べに行って確かめてみるのがいいのだろうが、せっかくまた蘭州拉麺を食べるのなら、今度は昨年8月にオープンして以来、連日行列という店のほうで食べたいと思っているので、しばらくその機会はなさそうである。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。