中国美味紀行その72(日本編6)「火鍋の簡易版であり火鍋の元祖。中国人の日常食──麻辣燙」
- 2018/03/17 00:00
- 佐久間賢三
今、池袋駅北口では麻辣燙(マーラータン)の店が増殖中である。気がついたら麻辣燙を食べられる店があちこちにできていた。横浜中華街では、以前ご紹介した「生煎」(シェンジエン 日本での別名“焼き小籠包”)の店が数多くできているが、池袋では麻辣燙のほうが優勢である。おそらくそれは、池袋駅北口という場所柄もあると思われる。日本ではまだあまり馴染みのないこの麻辣燙、果たしていったいどんな食べ物なのか。
※麻辣燙の「燙」の字は、もしかしたらパソコンやスマホの機種によっては文字化けするかもしれない。上側が「湯」で下側が「火」の漢字である。
選べる具材とスープの辛さ
麻辣燙は、「麻辣」という名がつくように、もともとは四川省が発祥で、火鍋の簡易版ともいえるし、火鍋はそもそもこの麻辣燙から始まったという説もあるほどの食べ物である。
さまざまな具材をスープで湯がいて、唐辛子と花椒たっぷりの麻辣味のスープを加えて出来上がり。具材はたくさんの種類の中から選ぶことができ、具の数によって値段が変わってくるシステムになっている。
安くて手軽に食べられることから、今では中国各地に広まっており、スープは各地の好みに合わせた味になっている。たとえば南部の広東省では辛いものが苦手な人が多いために比較的あっさりした味わいになっているし、上海では八角が入ったやや甘めの味になっている。筆者がかつて中国に住んでいた頃、夜に小腹が空いたり、ビールのつまみが欲しくなったりすると、よく外に麻辣燙を買いにいったものである。
そして池袋駅北口エリアにも、最近は麻辣燙の専門店がいくつかできており、それ以外にもその他の料理と一緒に麻辣燙も出している店もある。
というわけで、池袋駅北口に広がる繁華街にあるロサ会館の近くにある麻辣燙の専門店2軒に行って食べてみた。
1軒目は、薬膳スープで体にいいというのがウリのようで、スープと麺または春雨が基本セットで480円、それにトッピングの具が1品あたり100円となっていた。スープの辛さは5段階のうちから選ぶことができる。
辛味の中に漢方臭くない程度に薬膳っぽい複雑な味わいがあって、なかなかうまい。値段が高めなのが難点だが、クセになりそうな味である。
2軒目は狭い路地の角にあるこぢんまりとした店で、客も中国人ばかり。こちらは基本セットが具3つと春雨&スープで580円、具を1品追加するごとに+100円となっている。具は60種類以上の中から選ぶことができ、こんなふうに並んでいる。
具は基本的に串に刺さっていて、串ごと1本ずつ小さなカゴに入れて、それをカウンターに持っていく。そして、5段階あるスープの辛さを選び、春雨の種類(いろいろな太さがある)を選んだら、あとは出てくるのを待つのみ。
辛さは真ん中の3にしたのだが、食べた後、首筋にほんのり汗が流れる程度のちょうどよい辛さ。周りにいる中国人客たちの会話をBGMにしながら食べていると、中国に住んでいた頃の感覚が思い出されてきて、しばし意識が浮遊する。
池袋駅北口エリアは中国人も数多くいるので、彼ら相手の飲食店も多い。麻辣燙はスープの味さえしっかりしていれば、あとは具材を揃えるだけなので、他の飲食店よりも商売が始めやすいものと思われる。それに麻辣燙は多くの中国人にとっては日常食。だからこのエリアには麻辣燙の店が多いのだろう。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。