中国美味紀行その78(日本編12)「池袋駅北口で静かに増殖しつつある中国の小吃──鴨脖子」
- 2018/06/16 00:00
- 佐久間賢三
以前、池袋駅北口で麻辣燙(マーラータン)の店が増殖中であることをお伝えしたが、もう一つ、麻辣燙ほどではないが池袋駅北口で静かに増殖しているものがある。それが鴨脖子(ヤーボーズ)である。これは料理というより小吃(シァオチー。軽食、スナック、おやつの3つを合わせたようなもの)の一つなのだが、果たしてそれはいったいどんな食べ物なのか。
中国の有名チェーンのニセモノが売る鴨脖子
中国では鴨肉も一般的な食材で、レストランに行けばさまざまな鴨肉料理が味わえる。北京ダックなどは高級料理として日本でもよく知られている。そこで食べられているのはほとんどが体の部分だが、日本に比べて肉食文化の歴史が長い中国では、それ以外の部分も無駄にはしない。ヒレのついた足の部分、首、頭、はたまた舌まで、余すことなく料理にしている。鴨の血でさえ、豆腐状に固めて麺の具にしたり、鍋料理に入れたりする。
鴨の首の部分である鴨脖子もその一つ。日本の佃煮のように濃いめの味付けにして、それを小吃としておやつ代わりに食べるのが一般的だ。鴨の首は15センチほどの長さがあり、太さは直径3〜4センチほど。これを骨ごとぶった切っていただくことになる。
中国にはこの鴨脖子を売る有名チェーンが2つあり、中国全土に展開している。そのうちの一つと同じ名前の店が池袋駅北口にもある。名前もロゴも一緒で、誰もが(といっても、中国人か中国滞在経験者のみだが)このチェーンが日本に進出したものだと思っていた。
しかし、何かが違う。中国のチェーン店のほうは鴨脖子を中心とした小吃を店舗で販売するだけだが、池袋駅北口にある店はレストランになっているのである。日本の新聞がこれに気づき取材をしたところ、この店は真っ赤なニセモノで、中国の本社側は日本進出を否定しているという。
それでも店は店名もロゴも変えることなく、今でも営業を続けている。というわけで、この店に行って鴨脖子を買ってみた。それがこれである。
首の部分なので、当然真ん中には骨がある。その骨にくっついた肉を歯でこそげ落とすようにして食べていく。首の骨は細かく複雑な形をしているので、歯先を器用に使っていかないと、うまく食べられない。
お味のほうはといえば、醤油系の味付けなのだが、食べていくうちに辛さでだんだんと口の中が熱くなっていく。3つも食べれば口をハーハーさせることになる。美味いことは美味いのだが、毎日食べたりしたら確実に胃を壊しそうである。
池袋駅北口エリアで鴨脖子を売る店は、ここ以外にもいくつかあり、なかには店名に鴨脖子を謳っているところもあるほどだ。買うのはおそらくこのエリアで働く中国人がほとんどではないかと思われるが、果たしてこれが日本人に受けるかどうかは、はなはだ疑問である。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。