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中国美味紀行その82(日本編16)「香港茶餐廳メシ編その2 昼食にぴったりのリーズナブルな庶民メシ──ぶっかけ飯」

 香港に限らず、中国大陸の食堂によくあるのが“ぶっかけ飯”。皿のご飯の上に炒め物をぶっかけただけの、極めてシンプルな食べ物である。今回は茶餐廳でもよくあるぶっかけ飯2つを取り上げよう。

ぶっかけ飯に合うのは、やはりパラパラしたご飯か

 筆者が中国に住んでいた頃、昼食の時間になると、職場の近くにある“快餐庁”(標準中国語 *以下同:クァイ ツァン ティン)と呼ばれる食堂に行って、ぶっかけ飯を食べていたものである。ぶっかけるおかずにもよるが、日本円にして300円前後で食べられ、上にかけるおかずの種類も豊富だったので、昼食はほとんど毎日これだった。

 ぶっかけ飯は香港などの広東語圏では「碟頭飯」(ディッ タウ ファーン)、標準中国語では「蓋澆飯」(ガイ ジァオ ファン。「蓋」は覆いかぶせる、「澆」は注ぐ、かけるという意味)という。だが、食堂でオーダーする時は一般的に、ぶっかけるおかずの名前プラス「飯」となり、例えば麻婆豆腐のぶっかけ飯なら「麻婆豆腐飯」となる。

 日本に帰ってきてから、仕事の打ち合わせの後、昼食で近くにあった茶餐廳に。その店にはぶっかけ飯がいろいろあったので、中国でけっこう好きだったものを頼んでみた。それがこれである。

「番茄牛肉飯」(ファン チエ ニウ ロウ ファン)

 番茄とはトマトのことで、番茄牛肉はトマトと牛肉を一緒に炒めたものなのだが、この店ではおそらく缶詰のトマトを汁ごと使っているようで、牛肉の量もあまりにも少なく、かなり期待ハズレだった。実際はトマトと牛肉がゴロゴロと入っていて、すごく美味いのだが……。

 とはいえ、「番茄牛肉飯」は牛肉を使っているため、ゴロゴロ入れたら採算が合わないのだろう。トマトに缶詰を使っているのは、トマトを使う料理がこれしかなく、しかもあまりオーダーされないことから、食材ロスを避けるために生ではなく缶詰を使っているのかもしれない。

 ということで、2度目にこの店に行った際には、日本でも普通に売っている安い食材のナスを使ったぶっかけ飯をオーダーしてみた。

「紅焼茄子飯」(ホン シャオ チエ ズ ファン)

「紅焼」は醤油ベースの甘辛い味付けで、中国ではよくある調理法の一つである。この紅焼茄子飯は期待にたがわず美味かった。油を吸ったナスに甘辛い味付けがよく馴染み、口に運ぶスプーンが止まらない。

 ただ、前回はあまりにも味が期待ハズレだったので気づかなかったが、こういったぶっかけ飯の場合、モチモチした日本の米よりも、パラパラした中国の米のほうが合うように感じた。

 ナスを使ったぶっかけ飯には、他に「魚香茄子飯」(ユー シァン チエ ズ ファン)というのもある。魚という字が入っているにもかかわらず魚は使っていないのだが、これは四川料理の味付け方法で、酸味、甘み、辛味が一体となり、たまらなく美味い。どこかの店で見つけたら、ぜひ食べてみたいと思っている。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。