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中国美味紀行その86(日本編20)「香港茶餐廳メシ編その6 まるで暗号のような名前の食べ物──三文治」

 香港の茶餐廳の代表的なメニューとして、ご飯物や麺類をこれまでご紹介してきたが、今回はもう一つの代表的なメニューであるサンドイッチについて取り上げよう。香港のサンドイッチにはまるで暗号のような名前がついていて、知っていないと何のサンドイッチなのか分からないのが特徴といえば特徴である。

「蛋治」「火腿治」「芝士治」「芝腿治」「腿蛋治」「餐蛋治」「蛋牛治」とは?

 タイトルにもあるが、広東語でサンドイッチは「三文治」で、読み方は「サーンマンジー」となる。お気づきかもしれないが、これは英語のサンドイッチから来ている。サンドイッチとサーンマンジー、似ているといえば似ているし、似てないといえば似てないし……。ちなみに中国や台湾では「三明治」(読み方はサンミンヂー)と呼ばれている。

 香港の茶餐廳にはサンドイッチの他にも、パンメニューとして多士(ドースィー=トースト)や西多士(サイドースィー=フレンチトースト)がある。三文治と同様、多士も英語のトーストから来ている。

 東京にある茶餐廳にもメニューの中に当然のことながらサンドイッチがあり、仕事の打ち合わせで近くを通ったので、昼食がてら行って食べたのがこれである。

卵コンビーフサンドイッチと奶茶(ナイツァー=香港式ミルクティー)

 メニューにあるサンドイッチの部分を見ると、「蛋治」「火腿治」「芝士治」「芝腿治」「腿蛋治」「餐蛋治」「蛋牛治」といった文字が並んでいる。これらは、サンドイッチの具を表しているのだが、知らないと何がなんだか分からない(実際はその下に日本語も書いてあるので、すぐ分かるのだが)。

「治」の文字は「三文治」を省略したもので、これでサンドイッチのことを表す。そして「蛋」は広東語で卵のことを表す「雞蛋」(ガイダーン)の略で、つまり「蛋治」(ダーンジー)は「卵サンドイッチ」。同じように「火腿」はハム、「芝士」はチーズなので、「火腿治」(フォートイジー)はハムサンドイッチ、「芝士治」(ジースィージー)はチーズサンドイッチとなる。

 次の「芝腿治」「腿蛋治」はこれらの単語が組み合わさったもので、「芝腿治」(ジートイジー)はチーズハムサンドイッチ、「腿蛋治」(トイダーンジー)はハム卵サンドイッチである。

 さらに、「餐蛋治」(ツァンダーンジー)の「餐」は「餐肉」の略で、これはスパムのこと。だからスパム卵サンドイッチとなる。そして最後の「蛋牛治」(ダーンガウジー)の「牛」は、牛肉は牛肉でも「鹹牛肉」(鹹は塩味、塩辛いの意味)で、これは「コンビーフ」のこと。なので「蛋牛治」は卵コンビーフサンドイッチという意味である。

 結局、食べたのは「蛋牛治」だったのだが、どれにするか迷った末にオーダーしたため、パンをトーストしてもらうのをすっかり忘れてしまった。茶餐廳のサンドイッチは、好みにもよるが、トーストしてもらうのが一般的である。

「蛋牛治」のお味のほうは、塩気のあるコンビーフが卵の柔らかい味と交わり、優しい味わいになっていた。ただ、量的には物足りなかったので、もう一品追加するか、午後のおやつにちょうどいいかと思う。

 これで茶餐廳編はとりあえず終了。次回からは特別編として、台湾に行って食べてきた、いくつかの小吃を取り上げていく予定である。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。