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中国美味紀行その100(日本編22)「マカオで生まれたポルトガル式エッグタルトが日本でも──葡式蛋撻」

 中国美味紀行も、ついに100回目を迎えた。まあよくネタがこれまで続いたものである。記念すべき100回目ではあるが、いつものように淡々と“中国の味”をお伝えしていく。今回は、マカオ名物のエッグタルト、「葡式蛋撻」である。

ポルトガルの伝統的なお菓子をイギリス人が改良

「葡式蛋撻」の「葡式」は「葡萄牙式」の略で、“ポルトガル式”という意味。「蛋撻」のほうは「蛋」が卵という意味、「撻」(ター)は「タルト」の音を漢字で表したもので、両方合わせて「エッグタルト」、そして全部を合わせて「ポルトガル式エッグタルト」となるわけである。

 エッグタルトは20世紀初期から広東省の広州あたりですでに作られていたようだが、今の形のポルトガル式エッグタルトの発祥は、広東省の南側と接するマカオとされている。マカオはかつてポルトガル領だっただけあって、ポルトガルの食べ物もかなり入ってきているのである。

 ポルトガルにはカスタードタルト「パステル・デ・ナタ」という伝統的なお菓子があり、マカオに住むイギリス人男性がこれに改良を加えて生まれたのが、ポルトガル式エッグタルトなのである。これが今ではマカオだけではなく海を挟んだお隣の香港、そして大陸側の広東省にまで広がっている。

 このエッグタルトを作りだしたイギリス人の店は、マカオの南端のひなびた街にあるにもかかわらず、わざわざ足を運んで買いに来る客が後を絶たない。また、マカオの中心部にもエッグタルトで有名な店があるのだが、こちらの店は、そのイギリス人男性の元妻の店である。

 マカオのポルトガル式エッグタルトについては、以前に『中国美味紀行その60(深圳編14)「マカオ遠征1 イギリス人が作ったポルトガル風タルトがマカオの名物に──エッグタルト」』でも書いているので、そちらをご覧いただきたい。

 で、旦那のほうであるイギリス人男性の店が、日本の関西地方に支店を何軒か構えている。大阪に出張に行ったついでに店に立ち寄って食べてみた。それがこれである。

「葡式蛋撻」 広東語読みは「ポウ セック ダーン タット」だが、標準中国語読みは「プー シー ダン ター」。最初の「プー」の音を強く破裂させないと、中国人には「不是蛋撻」(エッグタルトではない)と聞こえてしまう

 優しくてほどよい甘さとクリーミーな舌触り、そしてサクサクした生地。香港や広東省に住んでいたことがある人にとっては非常に懐かしい味である。ちなみに上海にも、葡式蛋撻を販売するチェーン店がある(マカオの店とは別物)。

 これは日本人にも絶対に受ける味だと思ってネットで検索してみたら、今では東京都内でも、このエッグタルトと同じようなものを販売する店がいくつか出てきていた。

 その一つの店に行ってみた。こちらはマカオのエッグタルトではなく、ポルトガルの「パステル・デ・ナタ」を販売する店である。それがこれである。

「パステル・デ・ナタ」 マカオのエッグタルトよりも色が濃く、生地もやや厚いが、味はほぼ同じ

 マカオのポルトガル式エッグタルトとポルトガルのパステル・デ・ナタはまったく異なる、などという説明もあるが、これはどう見ても(いや、食べても)、ほとんど同じものだった。もちろん、パステル・デ・ナタを本場のポルトガルで食べたことがあるわけではないので、断定はできないのだが。

 いずれにしても、東京でもエッグタルトが食べられるようになったのは嬉しいかぎり。次はまた別の店に行って、食べ比べてみたいと思っている。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。