SecurityInsight | セキュリティインサイト

中国美味紀行その103(日本編25)「名前は聞いたことがあるけど食べたことがない伝説の麺──ビァンビァン麺」

 これまで日本編でご紹介してきた食べ物は、すべて中国でも食べたことがあるものだったが、今回初めて、中国では食べたことがない料理をご紹介する。それはビァンビァン麺である。「麺」と書いた以上、麺料理であることは間違いないのだが、なぜ漢字ではなく「ビァンビァン」などとカタカナで書いたのか。それには理由がある。

いったい誰がこんな漢字を作り出したのか

 中国でもこのビァンビァン麺はある意味、伝説の麺といえる。多くの人がその名前を聞いたことがあっても、食べたことはおそらくないからである。筆者も中国の都市数か所に住んだことがあるが、この麺を出している店を見たことがない。

 ではなぜ、多くの人がその名を聞いたことがあるのか。それは、この「ビァンビァン」という名前に理由がある。

 この「ビァンビァン」のビァンを漢字で書くと、下のようになる。

東京でビァンビァン麺を出す店の看板にあった「ビァン」の漢字

 全部で57画。これでbiáng(上がり調子のビァン)と読み、この字を2つ続け、その後に「麺」を付ければ「ビァンビァン麺」となる。

 こんな漢字は、さすがに漢字発祥の地・中国でも正式な漢字の中に含まれていない。もちろんパソコンで打ち出すこともできない。そもそも標準的な中国語に「biang」という発音はない。

 こんな特殊な漢字で書く名前の麺があるということで、中国ではよく知られているわけである。

 調べてみると、ビァンビァン麺は中国・北西部の陜西省の食べ物で、麺が薄くて幅広なことから「褲帯麺」、つまり「(ズボンの)ベルト麺」とも呼ばれているそうである。

 そのビァンビァン麺が東京でも食べられるというので、その店に行ってみた。キッチンではおじさんが白い塊をバチンバチンと調理台にぶつけながら伸ばして麺にしている。

 メニューのビァンビァン麺には具によってトマト麺、ヨウポー麺(油潑麺)、ザージャン麺(炸醤麺)と全盛り麺があり、本場ではヨウポー麺が基本だというので、それを頼んだ。そして出てきたのがこれである。

油潑麺(850円)。小さく見えるが、けっこう食べごたえがある

 ダイス状にきざまれた肉と野菜。そしてその下に麺が隠れている。汁なし麺なので、タレが麺の下にあり、よく混ぜてから食べる。それがこちら。

麺の幅はきしめんほど

 油潑というのは油や唐辛子、塩、その他の調味料などを混ぜ合わせた調理法のこと。麺の幅は1センチほどで、ベルト麺と呼ぶほど太くはない。麺はモチモチしていて歯応えがいいが、味のほうはいたって普通。特に美味いというものではなかった。

 ネットで調べて出てきた、ビァンビァン麺を出すもう一軒の店では、写真を見るとかなり麺の幅が広い。その店はアメ横に最近増殖してきた中国人経営の食堂で、アメ横センターのすぐ脇にある。

 先ほどの店は写真的にインパクトが足りなかったので、アメ横の店にも行ってみた。その店では「ビァンビァン麺」とは銘打っていなかったが、「油潑手打麺」というのがあり、それがいわゆるビァンビァン麺と同じものだということだった。それがこれである。

こちらは麺の幅が不一定というか、ギザギザしている

 手打ちというだけあって、麺の幅がまちまちである。それでも、最も幅が広いところでは4センチくらいある。こちらのほうが写真的にはインパクトがあり、麺が幅広なだけあって歯応えも良かったが、タレの味付けがしょっぱめで、単に唐辛子がその辛さを主張してくるだけで、美味くもなんともなかった。

 結局、味的には満足できずに、お腹だけ膨らませることになった。もちろんこれは、日本の店で食べたから美味くなかっただけで、本場で食べればもっと美味しいのだろう。

 ビァンビァン麺。伝説の麺はやはり伝説のままにしておいたほうがいいのかもしれない。

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。