中国美味紀行その114(四川食い倒れ旅編3)「友人の自宅で白酒とともに味わう──四川家庭料理」
- 2019/12/21 00:00
- 佐久間賢三
今年6月に開通したばかりの成都―宜賓間の高速鉄道に乗り、四川省南部にある宜賓(イービン)市へ。ここにはこれまで何度か来たことがあり、最初は10年前の2009年で、今回で5回目である。ここでは現地に住む友人たちに歓待してもらい、地元の料理をとことん味わった。
牛肉料理に豚肉料理、そしてもう一つは……
宜賓に着くと、駅から市バスに乗ってホテル近くまで行き、夕方前にホテルにチェックイン。一息ついていると、仕事を終えた友人がホテルに迎えに来てくれて、再び市バスに乗って友人一家が住むマンションに向かった。
広い敷地内のマンション群の一棟にある家に着くと、彼女の旦那さんのご両親が出迎えてくれた。近くに住んでいるので、孫の面倒を見るためによく来ているそうである。そのご両親が作った四川の家庭料理でもてなしてくれた。それがこれである。
まずは水煮牛肉(シュェイ ヂュー ニゥ ロウ)。“水煮”などといっても決してあっさり味ではない。唐辛子や花椒がたっぷり入った辛いスープで牛肉を煮込んだ料理である。牛肉ではなく川魚を使った水煮魚(シュェイ ヂュー ユー)というのも、四川料理ではよくある。
辛いといっても、辛いものが比較的平気な人なら問題なく食べられる程度の辛さ。肉を噛みしめていると、花椒の痺れる辛さはそれほど強くないものの、麻辣の辛さが口の中に染み渡ってきて、いきなり四川料理の醍醐味を口いっぱいに味わった。
この料理を見てすぐに料理名を言える人は、なかなかの四川料理通だろう。これは回鍋肉(フエイ グォ ロウ)である。最近は日本でも知られるようになってきたが、本場四川の回鍋肉は野菜にキャベツではなく葉ニンニクを使う。
回鍋肉の「回」は、中国語では“回す”という意味ではなく、“帰る、戻る”という意味。つまり回鍋肉は“鍋に戻した肉”というような意味である。これは作り方を表していて、皮付きの豚肉のかたまりを鍋(日本でいうところの中華鍋)で茹でてから薄切りにして、それを今度は鍋で炒めるから回鍋肉というわけである。作り方はやや面倒なもののシンプルなので、四川を代表する家庭料理といえるだろう
そして、牛肉、豚肉と続いてテーブルに並んだのがこれである。
正式な料理名は分からないが、簡単に言うと、カエル炒めである。カエルも中国ではけっこう普通の食材で、皮を向いて頭と内蔵と取った骨付き肉をいただく。肉そのものはあっさりした味なので、辛い味付けともよく合う。ただし身が小さいので、小さな骨に付いた肉を歯の先でこそげ取るようにして食べるのが、ちょっと面倒である。
そして、ご飯の準備の準備が整うと、お義父さんが嬉しそうに出してきたのがこの小瓶。白酒(バイ ジゥ)である。贈答用の化粧箱に入っていたし、安っぽい透明の瓶に入ったものではないから、高級品とまではいえないだろうものの、おそらくそこそこ値の張るものだろう。
アルコール52度、150ml入り。これを小さめのグラスに注ぎ、一口あおると、食道から胃袋にかけて、ライターの火が一瞬ともったかのようにかっと燃え上がる。これがまた、辛い四川料理に合うのである。
結局、お義父さんと二人で2本空けた。白酒は宴会などで強制的に飲まされるのは苦痛でしかないが、こうやって料理を食べながら差しつ差されつ、ゆっくりと自分のペースで飲む分にはいいものである。
そして、もうほとんど食べ終わった頃に、友人の旦那さんが仕事から帰ってきた。旦那さんが余った料理とご飯を軽くかきこんだあと、筆者と友人夫婦の3人で、外に出て飲み直すこととなった。宜賓の宴はまだまだ続く。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。