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中国美味紀行その116(四川食い倒れ旅編5)「朝から唐辛子で胃袋にカツ!──紅油抄手」

 四川の朝ご飯は、中国の一般的な朝食とはやや異なる。包子(バオズ=肉まん)や粥(ヂョウ)、豆漿(ドウ ジァン=豆乳)といったところはほぼ同じだが、その他に、朝からでも辛いものが普通に食べられるのである。今回食べた、紅油抄手(ホン ヨウ チャオ ショウ)もその一つである。

ラー油のようなタレで味付けしたワンタン

 今回泊まったホテルは安宿ばかりなので、当然のことながら朝食バイキングなどない。いずれにしても、せっかく中国に来たのに、ホテルのレストランなどで朝食を食べてはもったいない。たとえ屋台のようなところであっても、ローカルな食べ物を食べたほうがずっと美味しい。

安宿(1泊2500円程度)に宿泊すると、ドアの下に名刺大の楽しいチラシが投げ込まれてくる

 と、高級ホテルに泊まるほどのお金がない自分に言い訳したところで、朝起きてホテルを出ると、朝からウロウロと食堂を探し回るのも面倒だったので、最初に目についた店に入ることにした。

 間口3〜4メートルほどの、よくある狭い食堂。壁にかかっているメニュー表を見ると、麺類やワンタンなどがいろいろある。その中で、もっとも四川っぽいものを頼んでみた。それがこれである。

紅油抄手の小(8元=約130円)。スープはサービスで出てくるが、ほとんど味がない

 紅油抄手の紅油は、いわばラー油のようなもので、唐辛子をベースに植物油と花椒、八角、ねぎ、にんにく、生姜、砂糖などを加えて作ったタレである。日本のラー油は醤油などに加えて辛味を足す役割がメインだが、紅油は味付けそのものに使われる。とはいえ、口から火を吹くというほど辛くはなく、ほどほどの辛さである。

 一方、抄手のほうは、四川のワンタンである。抄手は一般的なワンタンとは形が異なっていて、帽子のような形をしている。この抄手については「中国美味紀行(四川編)―その8『食べているうちにワンタンとの対話モードに──老麻抄手』」でご紹介しているので、もし興味があればご覧になっていただきたい。なかなか面白い形である。

 中国のこの手の汁無しの食べ物は、器の下にタレが入っていることが多いので、食べる前によく混ぜて、具にタレをからめておく必要がある。皮と肉餡の甘みがタレの辛さを中和してくれるものの、それでもそれなりに辛い。味があまりないスープは、口の中の辛さを洗い流すためにあるのだろう。

 朝から唐辛子でガツンと胃にカツを入れて、宜賓の朝は始まったのである。
宜賓の旧市街にある大観楼。中に入ることもできるが、周囲がロータリーになっているので、向こうに渡るのにはちょっと勇気がいる

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。