中国美味紀行その118(四川食い倒れ旅編7)「火を着けたら本当に燃える?──宜賓燃麺」
- 2020/02/15 00:00
- 佐久間賢三
四川省宜賓市の2日目、五粮液の工場見学を終えると、一人で市バスに乗り、旧市街の中心部に戻った。ぶらぶらと散歩しながら、街中で600年以上の歴史がある古い酒製造工場を見つけたり(今も稼働中)、岷江と金沙江の2本の川が合流して長江(揚子江)となる場所でしばし川の流れを眺め、その河口にある遠い上海に思いを馳せたりした後、小腹が空いてきたのでおやつにすることにした。宜賓名物の宜賓燃麺(イー ビン ラン ミェン)である。
同じ汁なし麺でも、他とはちょっと違う
中国には、数は多くないながらも地名の付いた料理がいくつかある。宜賓燃麺もその一つ。他に有名なところでは、北京烤鴨(ベイ ジン カオ ヤー=北京ダック)や揚州炒飯(ヤン ヂョウ チャオ ファン)、桂林米粉(グイ リン ミー フェン)、蘭州拉麺(ラン ヂョウ ラー ミェン)などがある。
宜賓燃麺は、芽菜(ヤー ツァイ)と呼ばれる四川の漬物のみじん切りと肉みそ、ピーナッツ、青ネギなどがトッピングされた汁なし麺。中国で汁なし麺というと、お椀に入った麺の下にタレが入っていて、食べる前に麺とよく混ぜ合わせてから食べるのが一般的だが、宜賓燃麺は最初から麺がタレと混ぜ合わされて出てくる。それがこれである。
“燃”麺といっても口の中が燃えるほど辛いわけではなく、ピリ辛ていど。麺を茹でたら辣椒油などのいろいろな油を混ぜ合わせるため、火を着けたら燃えるほどだという意味で燃麺という名前が付いているのだという。四川省の省都である成都市では、地元発祥の担担麺と同じくらいかそれ以上に、宜賓燃麺の人気が高いそうである。
皿の下にタレはないが、麺と具をよく混ぜ合わせてから食べるのは、他の汁なし麺と同じ。麺は細めで、芽菜の独特の塩加減と肉みそ、麺に混ぜられたタレの味が絡み合い、そこにわずかにピーナッツの甘みと歯応えが加わる。担担麺よりも味に深みがあるような気がするのは、やっぱり宜賓燃麺の地元で食べているからだろうか。
日本でこの宜賓燃麺を出している店はまだないようだが(燃麺モドキを出す店はある)、芽菜は缶詰が手に入るので、いつか自分で作ってみたいと思っている。
佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。