SecurityInsight | セキュリティインサイト

中国美味紀行その119(四川食い倒れ旅編8)「これまでに食べたことのなかった味──烏魚火鍋」

 四川省宜賓市の2日目の夜、今回宜賓で遊んでくれた現地の友人3人と晩ご飯に行くことになった。「火鍋が食べたい」とリクエストして食べさせてもらった火鍋は、これまでに食べたことのない味の火鍋だった。

薄緑色のスープに使われている素材とは

 友人に今日はどんな火鍋を食べるのかと聞くと、「烏魚火鍋」(ウーユー フオグォ)だという。烏魚というのは、日本語でいえばライギョのこと。これは川魚で、ナマズ同様、四川省のような海のない内陸部では一般的な食材である。

生簀といっても中に水がほとんど入っていない 店に入ってテーブルにつくと、まずは魚を選ぶために、店内にある生簀(いけす)に。見ると、50センチ以上もある黒くて大きな魚が大量にうごめいている。この中から選ぶといっても、どれも同じにしか見えなかったが、友人が適当に一匹選んでくれた。

 しばらくするとテーブルに鍋が運ばれてきた。火鍋というから真っ赤に煮えたぎるマグマのようなスープを想像していたが、出てきたのは薄緑色のスープ。そこに、同じく薄緑色をした唐辛子が何個か浮かんでいた。

 スープが煮立ってくると、さっき選んだ魚をさばいて身をスライスしたものを店員さんが持ってきて、それをまとめてドバっと鍋の中に放り込んだ。日本の鍋のように、煮え具合、食べ具合を見計らいながら、何回かに分けて入れるようなことはしない。

あの大きさの魚にしては、出てきた身の量が少なすぎると思うのだが……

 中国の火鍋レストランでは、一般的に店員さんが具を鍋に入れてくれて、食べ頃まで教えてくれるところが多い。つまり、鍋奉行が必要ないのである。思い返してみれば、これまで中国で何度も友人たちと一緒に火鍋を食べてきたが、いわゆる鍋奉行のような人には会ったことがない。

 それはさておき、気になるのは鍋のスープである。友人に聞くと、浮かんでいる薄緑色の唐辛子は、中国で山椒(シャン ジァオ)と呼ばれる青唐辛子の酢漬け「泡椒」(パオ ジァオ)だという。これは、前々回の羊肉米線のコラムでも登場している。この泡椒は辛味と酸味がある四川の漬物で、そのまま漬物として食べたり、料理に使ったりしている。

火鍋はやっぱり川魚にかぎる 煮立ってきたスープをお玉ですくって小鉢に入れ、なめてみると、たしかに唐辛子の辛さだが、赤唐辛子の辛さとはまた違った爽やかな辛さ。しかも、酢漬けにされているので酸味もある。初めて体験する味わいだった。

 これが、淡白な味の川魚の白身にまとわれると、川魚独特の臭みが抑えられ、芳醇な味わいになる。辛さはそれほどでもない。この火鍋、おそらく四川省とその隣の重慶市(以前は四川省の一部だった)くらいでしか食べられないのではないだろうか。

 火鍋とその他の料理ですっかり満腹になり、店を出ると、4人でプラプラと散歩しながら街中を歩いていった。しばらくしたらこのまま家に帰るのかなと思っていたら、すぐさままた別の店に行くことになる。それは次回に。
おまけカット。宜賓市の郊外にある新興マンション街。建物も多いが緑も多い

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。