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中国美味紀行その121(四川食い倒れ旅編10)「四川くらいでしか食べられない伝統の朝食──南瓜粥&葉児粑」

 四川省宜賓市の3日目は、現地の友人たちとともに、高速鉄道に乗って楽山というところに行くことになっていた。そこで、出発前にホテルの近くの食堂で朝食として食べたのが、南瓜粥(ナン グァ ヂョウ)と、四川省の伝統的な食べ物である葉児粑(イェ アール バー)。中国の朝食は、どこにいっても基本的に炭水化物(と少量の肉)ばかりのことが多いのである。

もち米でできた肉まんじゅう

 南瓜粥は、文字どおりカボチャが入ったお粥である。中国のお粥の調理方法は基本的に2種類あって、一つは米粒の形がなくなるまで煮込んだドロドロタイプと、米粒の形をある程度保ったままのツブツブタイプである。ドロドロタイプで有名なのが広東風の粥で、ツブツブタイプは広東省の東端にある潮州風の粥がよく知られている。

 四川の粥はその中間あたりであることが多く、米粒の形は残っているが、水気が多く、どちらかというとスープに近い。南瓜粥は中国のどこでも食べられると思うが、これといって特に味はついておらず、カボチャの味がほんのりする程度で、カボチャの甘味もそれほど感じない。でも、米だけのお粥よりも栄養はありそうな気がする。というわけで頼んだ次第である。

南瓜粥(2元ていど=約30円)。頼むと漬物も一緒に出てくる

 漬物がついてくるといっても、やはりお粥だけでは味気ないし物足りない。通常はここに肉包(ロウ バオ=肉まん)を付け加えて、肉まんをかじりながらお粥を啜るところだが、ここでは四川らしい食べ物を頼んだ。それがこれ、葉児粑である。

葉児粑(1個3元ていど=約45円)の肉餡には四川の漬物である芽菜(ヤー ツァイ)なども入っている(と思う)

 もち米とうるち米でつくった皮の中に肉餡を入れ、葉っぱで包んで蒸してつくる。葉児粑は日本語にすると「葉っぱ餅」のような意味である。また、出来たては表面が白くつやつやで、まるで茹でた子豚のようなことから、別名・猪児粑(ヂュ― アール バー)とも呼ばれているそうである。茹でた子豚に例えるところが、なんとも中国らしい。

 葉児粑には、今でも思い出すと苦笑いしてしまう思い出がある。8年ほど前にこの宜賓に来た時、地元の友人から朝食に葉児粑を勧められ、一人で食堂に入って食べたのである。どんな食べ物なのかも知らず、蒸し器の中に餃子のようなものがチラッと見えたので、8個頼んだ。そうしたら出てきたのが、おまんじゅうほどの大きさで、もち米(&うるち米)でできた肉まんじゅうだったのだ。

 もち米でできているから食いでがある。多くても4個が精一杯のところ、その倍の8個である。店のおじさんに「8個」と言ったとき、どおりでちょっと怪訝そうな顔をされたわけである。

 4個目あたりからかなり苦しくなってきたが、食べ物を残すのが嫌いなので、なんとか食べきろうと、一口食べるごとにため息を吐きながら奮闘していた。店のおじさんはそれを見かねたらしく、スープが入ったお椀を黙ってすっとテーブルの上に置いてくれた。青菜が浮かんだスープだった。

 友人にその話をすると大笑いされて、「私なら2個で十分よ」と言われた。その日はその友人と一緒に宜賓の有名店に昼ごはん食べにいくことになっていて、昼までにお腹がすくかどうか心配だったが、昼は昼でそれほど苦労することなく全部食べられた。我ながら強い胃袋である。
おまけカット。高速鉄道専用の宜賓西駅。1日50本ほどの列車がこの駅を通過する。南部の広東省広州市、南東部の福建省アモイ市、東部の浙江省温州市までの直通列車もある

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。