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中国美味紀行その122(四川食い倒れ旅編11)「日本ではあまり食べられることがないタウナギの料理──臨江鱔絲」

 宜賓市から現地の友人たちと一緒に高速鉄道に1時間ほど乗って楽山(ラーシャン)市へ。美味しいものが多い四川省の中でも、特に楽山市は隣の自貢(ヅー ゴン)市と共に、美食の街として知られている。そして、中国有数の観光スポットがある場所でもある。

身は小さいけど滋味たっぷり

 楽山の駅に着くと、配車アプリを使って呼んだ車に乗り、まずは昼食を食べるレストランへ。その店は黃鱔(フアン シャン)、いわゆるタウナギ料理の店である。タウナギは日本でも田んぼや用水路に生息しているが、食材として用いられることはあまりない。

 この店は観光シーズンになると行列ができるほどの人気なのだそうだが、その日は普通の日曜日だったこともあってか、それほど混んでおらず、店にすぐに入ることができた。

身から取った骨を使ったタウナギの骨せんべい 料理の注文はすべて友人たちにお任せ。最初に出てきたのがこれである。

 これはタウナギの骨を素揚げしたもので、骨せんべいのようにパリパリとした食感が面白い。いわば前菜のようなものである。

 その他にも、炒めた野菜などをつまみながら待っていると、メインディッシュがテーブルの上に運ばれてきた。これが臨江鱔絲(リン ジァン シャン スー)である。例によって赤黒い汁の中に、たっぷりと食材が入っているのが分かる。

器はラーメン丼の3倍はある

 臨江鱔絲は楽山名物の料理の一つで、楽山市の臨江鎮というところが発祥である。臨江は文字どおり「江(川)を臨む」、つまり川の近くという意味で、臨江鎮は長江の支流である岷江(ミン ジァン)のさらに支流の大渡河(ダー ドゥ ハー)のさらに支流の臨江河沿いにある。

 臨江鱔絲の鱔絲はタウナギの細切りというような意味で、箸で具を取り出してみると、出てきたのは開いて骨を取ったタウナギの身。あんな細いタウナギを、よく一匹一匹さばいていくものである。まるで北陸・富山県名物の、一匹一匹手で丁寧に皮と尻尾を取り除いている白エビのようである。

 食べ始めてまだ間もないのに、店員さんが来て汁の中に麺をドバっと入れていった。この手の料理は、具をある程度食べ終えてから麺を入れるのが普通だし、火鍋のように下に火があるのが普通である。しかし、この料理の入れ物は丼なので、下から火で温めることができない。もしかしたら、だから汁が温かい食べ始めのうちに麺を入れてしまうのかもしれない。

身は小さいが、濃厚な味わい

 お味のほうはほどよい辛さで、タウナギの滋味がそれと混じり合い、一匹一匹が小さいこともあって、永遠に食べ続けられそうな気にさせてくれる料理である。麺も汁によくからませて食べると、タウナギの風味が口いっぱいに広がってきて、さらに幸せな気持ちにしてくれる。

 これを3人で食べて、ちょうど良く腹八分目くらい。この後は、楽山の街中歩きと、楽山観光のメインイベント、これを見なきゃ楽山に来たとは言えないともいえる、あるものを見に行くことになる。
おまけカット。川の向こうの崖下に、楽山観光のメインスポットがある

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。