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吃貨美味探訪記 No.130(大馬編その1)「マレーシアで生まれた中華系料理──肉骨茶」

 今月から第3土曜日アップのこのコラムでは、新シリーズ「大馬編」として、東南アジアの国・マレーシアで食べてきた料理をご紹介していく。マレーシアを中国語で書くと「馬来西亜」(日本語の漢字を使用。普通話読みでマー ライ シー ヤー)となり、「大馬」はその略称である。そして第1土曜日アップのコラムは、以前と同様、東京を中心とした日本で食べられる中国の味を取り上げる「日本編」をお届けしていく。
 また、中国在住時に食べてきた料理のネタ(=写真)がとうの昔に尽き、前回で「四川食い倒れ旅編」も終わった今、これまでの「中国美味紀行」の「中国」というタイトルが実情と合わなくなってきてしまったので、今回から「吃貨美味探訪記」と変えることにした(ただし、通しナンバーは以前からの続きでNo.130とした)。「吃貨」(チー フオ)は中国語で「ただ飯食い、穀つぶし」という意味だが、その他に「食いしん坊」というような意味もある。
 また、最後の著者プロフィールも、新たなものに差し替えた。

肉骨茶の読み方が「バクテー」であるワケ

 さて、東南アジアの国なのに、なぜわざわざ「大馬」などと漢字表記にしたかというと、筆者のマレーシアの知り合いは、マレーシアの人口の約4分の1を占める中華系の人たち、いわゆる華人(※)で、そこで食べてきた料理も、その多くが現地の中華系料理だからである。つまり、マレーシア編とはいっても、結局は中国料理からそれほど離れないわけである。
(※華僑と呼ばれることもあるが、一般的に華僑が外国に住みながらも中国国籍を保持している人のことを指すのに対し、華人は現地の国籍のみを有している人たちのことを指す)

 筆者がマレーシアに初めて行ったのは1995年4月のこと。以来、25年の間に11回、かの国を訪れている。どれも1週間以内の短い滞在だが、現地の知り合いの人たちに連れられ、さまざまなマレーシアの料理を食べて(=ご馳走になって)きた。マレーシアの料理は日本人にはあまり馴染みがないが、美味しいものばかりである。

富士そばの肉骨茶そば。味付けはシンガポール風 この新シリーズの記念すべき第1回で取り上げるのは、「肉骨茶」(バクテー)である。マレーシアやシンガポールで食べたことがある人以外、知る人がほとんどいない料理だが、昨年末、立ち食い蕎麦チェーンの「富士そば」が、期間限定で「肉骨茶そば」を出した。しかも今年7月からは、店舗限定で「冷やし肉骨茶そばorうどん」などという、さらに斜め上をいくメニューも出している。なので、以前に比べて少しは知られるようになったかもしれない。

 肉骨茶は豚肉の塊を漢方薬で使う生薬や醤油などで煮込んだ料理で、マレーシアで生まれた中華系料理である(その南隣のシンガポール発祥という説もある)。材料に豚肉を使っているため、イスラム教徒であるマレー系の人たちが食べることはない。

クアラルンプール近郊にある肉骨茶の店。店名の泉洲は、福建省南部にある泉州を指している その昔、中国から出稼ぎに来た福建系の人が作り出したことから、肉骨茶の読み方が普通話読みの「ロウ グー チャー」ではなく、閩南語(福建省南部の言葉)由来の「バクテー」(アルファベット表記はBak kut teh)となっているのである。

 肉骨茶を初めて食べたのは、マレーシアを2度目に訪れた1996年のこと。ガイドブックか何かで肉骨茶のことを知り、現地の友人(広東系)に「食べてみたい」と言ったところ、福建系の知り合いに頼んで作ってもらい、食べさせてくれたのだ。しかし、やはり漢方の風味が強く、そういう味にまだ慣れていなかったこともあり、正直あまり好みではなかった。

 しかし、それから17年後、2013年にマレーシアに行った際にクアラルンプール近郊の店で食べさせてもらった肉骨茶は、スープありとスープなしの2種類あり、どちらも漢方臭さがほとんどなく、非常に美味しかった。これなら飯が何杯でも食えそうなほどである。さすがに、もともとは肉体労働者向けに作られた料理だけある。

マレーシア風の肉骨茶は濃厚な醤油味。一方、シンガポール風は胡椒のきいた塩味

汁なし肉骨茶は、比較的近年出てきた調理法らしい

 その後も何度か、現地の友人たちと肉骨茶の土鍋を大勢で囲んで食べる機会があった。まだシンガポールでは食べたことがないので、もし機会があったら、現地でシンガポール風の肉骨茶も食べてみたいものである。
肉骨茶にはやはり、酒ではなく白い飯が一番合う

おまけカット。クアラルンプール郊外にあるヒンドゥー教の聖地「バトゥ洞窟」。272段の階段を登った奥の鍾乳洞の中にある

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。